ユルマズ・ギュネイ

ユルマズ・ギュネイ

ユルマズ・ギュネイ（1937年4月1日 - 1984年9月9日）は、トルコを代表する映画監督であり、同時に優れた脚本家、小説家、そして俳優でもありました。彼の生涯は、芸術活動と政治的信念、そして波乱に満ちた出来事によって深く彩られています。

トルコ南部アダナ近郊で、綿花畑で働く移民労働者の両親のもとに生まれ育ったギュネイは、自らも労働者階級の一員として社会を見つめる視点を持ちました。彼はアンカラとイスタンブールの大学で法学や経済学を学びますが、学生時代に映画の世界に足を踏み入れます。1958年、アートゥフ・ユルマズ監督の助手としてキャリアをスタートさせた後、すぐにハンサムな俳優として注目を集め、1975年までに100本以上の映画に出演し人気を不動のものとしました。また、脚本家としても並行して活動し、1983年までに50本を超える作品を執筆しています。

彼の人生は、度重なる投獄によって分断されます。1960年にトルコ国内でクーデターが発生すると、彼が執筆した小説の内容が共産主義的であると見なされ、1960年から2年間投獄されました。出所後、1966年に『At avrat silah』で監督としてデビュー。1968年には自身の製作会社「ギュネイ・フィルム」を設立し、『希望』（1970年）や『エレジー』（1972年）など、意欲的な作品を次々と発表しますが、その多くがトルコ政府によって上映を禁止されました。

1972年には、アナキストの学生を匿ったとして再び逮捕、投獄されます。しかし、獄中でも映画製作への情熱は衰えず、監獄から外部のスタッフに詳細な指示を送り、助手のシェリフ・ギョレンが現場で演出を行うという異例のスタイルで創作を続けました。一時恩赦で出所し『アルカダシュ』を撮影する機会を得ますが、1974年に『エンディシェ』の撮影中に発生した事件で、口論相手の郡判事を銃撃した容疑で逮捕されます。この事件により、1976年7月、19年の懲役刑を宣告され、三度目の長期服役を強いられることになります。

再び鉄格子の内にあっても、ギュネイは創作活動を諦めませんでした。今回はゼキ・オクテンを現場の演出担当に指名し、獄中からの指示で『群れ』（1979年）や『敵』（1980年）といった傑作を生み出します。これらの作品は国際的に高く評価され、『群れ』はロカルノ国際映画祭特別表彰や英国映画協会サザーランド杯、『敵』はベルリン国際映画祭特別表彰を受賞しました。彼の功績は海外でも認められ、1977年と1981年にはベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を二度にわたり受賞しています。

1981年、ギュネイは大胆にも刑務所からの脱獄を決行し、フランスへと亡命します。そして、獄中でシェリフ・ギョレンに演出を託して撮影が進められていた自身の脚本による映画『路』の編集を、パリで完成させます。トルコの刑務所から仮出所した5人の男たちの旅路を描いたこの作品は、翌1982年の第35回カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールに輝き、世界に大きな衝撃を与えました。しかし、成功の頂点で、ギュネイの命は尽きようとしていました。1984年9月、亡命先のパリで胃癌により47歳という若さでこの世を去りました。

ユルマズ・ギュネイは、トルコの社会問題や労働者階級の厳しい現実を鋭く描き出し、権力に抵抗する姿勢を貫きました。度重なる投獄の中でも映画製作を続けた彼の不屈の精神と、芸術の力で社会に問いかけたその生涯は、今なお多くの人々に影響を与えています。

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