ユーティリティコンピューティング

ユーティリティコンピューティングとは

ユーティリティコンピューティングとは、コンピューターのリソース（CPU、ストレージなど）を、電気やガス、水道のように使用量に応じて料金を支払うサービスとして提供する形態を指します。この方式では、システム構築時の初期投資を大幅に削減できる、あるいはほとんど不要にできるというメリットがあります。その代わりに、計算リソースは基本的にレンタルという形で提供されます。

ユーティリティコンピューティングの利点

顧客は、急に大規模な計算能力が必要になったり、アクセスが集中して処理能力が求められる場合でも、新たなコンピューター群を物理的に調達して配線するといった手間をかけることなく、必要に応じて柔軟にリソースを追加して利用できます。従来のホスティングサービスでも、個々のサーバーをレンタルして利用開始することは比較的迅速に行えます。例えば、Webサイトへの急なアクセス集中に備えて、事前にWebサーバー群を用意しておくといった対策が可能です。

仮想化と分散コンピューティング

「ユーティリティコンピューティング」という言葉が使われる場合、一般的にはストレージや計算能力の仮想化が前提とされます。利用可能なリソースは単一のコンピューターシステムよりも大きく、複数のサーバーシステムを組み合わせて一つのシステムとして構築されます。これは、例えばコンピュータークラスターをレンタル専用に構築するようなもので、場合によってはスーパーコンピューターを使用することもあります。このように、複数のコンピューター上で一つの計算を行う技術を分散コンピューティングと呼びます。

グリッドコンピューティングとの違い

「グリッドコンピューティング」も分散コンピューティングの一形態ですが、これは利用形態ではなく、物理的な構成や組織的な構成を表す用語です。ユーティリティコンピューティングの定義は、Webサービスのような特定の業務と結び付けられることもあります。

クラウドコンピューティングとの比較

2006年に提唱され広く普及したクラウドコンピューティングは、商用サービスとして見た場合、契約に対する考え方が大きく異なります。ユーティリティコンピューティングでは、メインフレーム時代と同様に、利用可能な性能やメモリ容量、サービスの利用可能場所などが事前に公開され、厳格な契約を経て利用が開始されます。そのため、1分1秒単位で変化する需要の増減に応じて利用する計算リソース量を変更することはできません。急激な需要増によって処理遅延が発生しやすく、需要が少ないときには無駄なコストが発生するという課題があります。しかし、クラウドコンピューティングでは、ユーザーから見て設定一つで（時には全自動で）計算リソースの変更が可能なため、需要の増減に合わせて柔軟にリソース量を調整できます。これにより、必要なときに必要なだけ計算リソースを利用できるため、ユーティリティコンピューティングに比べてコスト面で効率的な利用が可能です。

ユーティリティコンピューティングの歴史

ユーティリティコンピューティングは、決して新しい概念ではありません。1961年、ジョン・マッカーシーはマサチューセッツ工科大学の100周年記念にあたり、以下のように述べています。「私が提唱するようなコンピューターが将来実現するならば、電話が公共設備となったように、コンピューティングも公共設備となる日が来るだろう。コンピューターユーティリティは、新たな重要な産業基盤となるかもしれない。」

1964年のMulticsにも、コンピュータ・ユーティリティの考え方が根底にありました。

IBMは、メインフレームと電子タイプライターを電話回線で接続し、計算能力やデータベース用のストレージ領域を銀行などに提供する事業を行っていました。

2000年には、サン・マイクロシステムズがSun Gridサービスを開始し、時間単位で計算能力を利用できるサービスを提供していました。また、InsynQは、ヒューレット・パッカードのコンピューターなどを利用して、1997年からユーティリティコンピューティングのサービスを開始しています。

クラウドコンピューティングの登場

クラウドコンピューティングの先駆けとなるサービスとして、2006年8月25日にAmazon.comがAmazon EC2を開始しました。このサービスは、最小リソースであれば1時間あたり0.1ドルからのコストでリソースを提供し、ストレージ容量とインターネット上のデータ転送量によっても課金される仕組みでした。仮想化技術にはXenが採用されており、レンダリングや計算処理だけでなく、Webサーバークラスターとしても利用できます。このサービス開始以降、クラウドコンピューティングは急速に普及しました。

まとめ

ユーティリティコンピューティングは、コンピューターリソースを必要な時に必要なだけ利用できる画期的なサービス形態です。初期投資を抑え、柔軟なリソース管理を可能にする一方で、利用状況によってはコストが非効率になるケースもあります。クラウドコンピューティングが登場する以前から存在した概念であり、その歴史は非常に長いものとなっています。今日では、クラウドコンピューティングが主流となっていますが、ユーティリティコンピューティングの概念は、現在のコンピューティングサービスを理解する上で重要な基礎となっています。

脚注

関連項目

Software as a Service

外部リンク

IBM Systems Journal - Vol. 43, No. 1, 2004 - Utility Computing
2003年総集編 -- ユーティリティコンピューティングの夜明け CNET Japan、2003年12月29日
「ユーティリティコンピューティングを目指す」孫正義ソフトバンク社長 INTERNET Watch、2004年2月19日
* オーストラリア GRIDS 研究所の報告 - Utility Computing and Global Grids

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