ユーリー・マルトフ

ユーリー・マルトフ：ロシア革命を彩った穏健な革命家

ユーリー・マルトフ（1873年-1923年）は、20世紀初頭のロシアを揺るがした革命運動の中枢にいた、重要な社会運動家です。本名ユーリイ・オシポヴィチ・ツェデルバウム。ユダヤ系中流階級の家庭に生まれ、イスタンブールで幼少期を過ごしました。祖父はヘブライ語新聞を発行する知識人で、父も自由主義的な思想を持つ人物でした。7歳の時にオデッサで経験したポグロムは、後の彼の人生に大きな影響を与えたと考えられています。

青年期のマルトフは文学や社会問題に強い関心を示し、ナロードニキ運動に共鳴。1890年にはマルクス主義に傾倒し、サンクトペテルブルク大学に入学。学内で社会民主主義のサークルを結成するも、当局の弾圧を受け、投獄、追放を経験します。

1895年、サンクトペテルブルクに戻ったマルトフは、レーニンと出会い、「労働者階級解放闘争同盟」に参加。しかし、1896年に再び逮捕され、東シベリアに流刑となります。3年間の流刑生活で結核を患いますが、1900年に刑期を終えると西ヨーロッパに亡命しました。

亡命先では、レーニンと共同で機関紙『イスクラ（火花）』の編集・発行に携わり、パリのロシア高級社会科学アカデミーで講義を行うなど、精力的に活動しました。しかし、1903年のロシア社会民主労働党第2回大会でレーニンと組織問題で対立。以後、マルトフはメンシェヴィキの指導者として、レーニン率いるボリシェヴィキと対立する立場をとることになります。

1905年の第一次ロシア革命時には帰国し、ペテルブルク労働者ソビエトに参加しますが、再び逮捕され、亡命を余儀なくされます。1917年の二月革命後、帰国しましたが、ソビエト政権に反対し、1920年に再び亡命。ベルリンで「社会主義報知」を発行しながら、反ソビエト運動を続けました。

マルトフとレーニンは、ロシア革命以前は協力関係にありましたが、革命へのアプローチ方法や党組織運営をめぐって深刻な対立が生じました。マルトフは、レーニンが唱える中央集権的な党組織や革命の急進的な方法論に批判的であり、より民主的で穏健な革命を志向していました。この思想の違いが、メンシェヴィキとボリシェヴィキの分裂、そしてロシア革命の複雑な展開に影響を与えたことは間違いありません。

1923年、ドイツのシェーンベルクで結核のため49歳で死去しました。彼の死は、ロシア革命史において重要な転換点の一つであり、メンシェヴィキ派の衰退を象徴する出来事でもありました。マルトフの著作『ロシア社会民主党史』は、ロシア革命を理解する上で貴重な資料となっています。彼の生涯は、激動の時代を生きた穏健な革命家の、複雑でドラマチックな物語であり、ロシア革命史における彼の役割を理解することは、革命全体の理解を深める上で不可欠です。彼の穏健な立場、民主主義へのこだわり、そしてレーニンとの複雑な関係は、今日においても多くの研究者によって分析され続けています。

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