ヨハン・アンドレ

ヨハン・アンドレ

ヨハン・アンドレ（Johann André, 1741年3月28日 - 1799年6月18日）は、18世紀後半のドイツで活動した作曲家であり、音楽出版事業の先駆者です。彼はドイツで初めて書店から独立した音楽専門の出版社を創業し、その事業をヨーロッパ有数の規模へと発展させました。

生涯

アンドレは、ユグノー系の家庭に生まれ、マイン川沿いの都市オッフェンバッハ・アム・マインで育ちました。この地で音楽出版会社を設立します。当時、音楽出版は書店の兼業が一般的でしたが、アンドレは音楽に特化した出版社として独立させました。これはドイツにおける音楽出版事業の歴史において画期的な出来事でした。

オッフェンバッハ時代には、この地を訪れていた文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテと親しい交流がありました。ゲーテは自伝『詩と真実』の中で、1775年のオッフェンバッハ滞在におけるアンドレとの交友について記述しています。

1777年、アンドレはベルリンのドイツ劇場の音楽監督に招かれ、文化の中心地で活動しました。この時期に彼は約30曲に及ぶオペラ、ジングシュピール、バラード、歌曲など、劇場のための多様な音楽作品を作曲しました。主な作品には、『ベルモントとコンスタンツェ』（モーツァルトとは別の作品）、『セビーリャの理髪師』などがあります。

しかし、1784年にはベルリンでの職を辞し、故郷オッフェンバッハへ戻りました。創業した出版社の経営が思わしくなかったことと、劇場での仕事よりも出版事業の方が経済的に有利と考えたためです。帰郷したアンドレは出版事業の立て直しに尽力し、その結果、会社はヨーロッパでも屈指の規模へと成長しました。彼の生前に、出版社からは1300点以上の作品が出版され、当時の音楽普及に大きく貢献しました。

ヨハン・アンドレは、1799年6月18日に58歳で生涯を終えるまで、オッフェンバッハで精力的に活動を続けました。

息子による継承と革新

アンドレの死後、事業は息子のヨハン・アントン・アンドレ（Johann Anton André, 1763-1840）に引き継がれました。ヨハン・アントンも父と同様に作曲家・音楽理論家としての素養を持っていました。

ヨハン・アントンは1799年にウィーンを訪れ、モーツァルトの未亡人コンスタンツェと交渉し、モーツァルトが残した膨大な音楽資料や自筆譜を譲り受けました。これにより、彼はモーツァルトの作品を整理・出版する上で重要な役割を果たし、後のモーツァルト研究の基盤を築きました。また、コンスタンツェからの依頼により、未完だったオペラ『ドン・ジョヴァンニ』序曲の終結部分を完成させ、この名作の演奏会での上演を可能にしたことでも知られています。

さらに、ヨハン・アントンは音楽出版技術の発展にも貢献しました。特に、音符の印刷にリトグラフを導入したことは、楽譜の大量生産や複雑な表現の再現性を飛躍的に向上させました。

現在のアンドレ社

ヨハン・アンドレが創業した音楽出版事業は、「Musikhaus André」および「Musikverlag Johann André」として、250年以上の歴史を経て現在も続いています。これらの名称で、オッフェンバッハの中心部に拠点を置き、広範な音楽資料の出版・販売を行っています。

ヨハン・アンドレは、作曲家としての才能と、ドイツ初の独立した音楽出版社を成功させた起業家精神を兼ね備え、18世紀の音楽界に確かな足跡を残した人物です。

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