ヨーゼフ・マルティン・クラウス

ヨーゼフ・マルティン・クラウス

ヨーゼフ・マルティン・クラウス（Joseph Martin Kraus, 1756年6月20日 - 1792年12月15日）は、現在のドイツで生を受け、スウェーデン宮廷で主に活躍した古典派時代の重要な作曲家です。しばしば「スウェーデンのモーツァルト」と称される彼は、短い生涯ながらも質の高い多様な作品を残しました。彼の作品は、研究者によってヴァン・ボーア番号（VB番号）によって整理されています。近年、特に彼の交響曲全集などの録音が発売されたことをきっかけに、再びその名前が注目されるようになりました。

生涯

クラウスは1756年、マイン川沿いの町ミルテンベルクで生まれました。幼少期を過ごした後、マンハイムのイエズス会ギムナジウムで学び、さらにマインツ、エアフルト、ゲッティンゲンの各大学で哲学と法学を修めました。彼は単なる音楽家としてだけでなく、劇作家、著述家、画家としての才能も持ち合わせていました。生涯の多くを旅に費やした同時代の巨匠モーツァルトとは異なり、彼の人生はまた別の軌跡をたどります。

人生の転機が訪れたのは1781年、ストックホルムのグスタフ3世の宮廷作曲家という重要なポストに就いたことです。宮廷での仕事を得た翌年、彼は約4年間にわたるイタリアやウィーンなどへの音楽修業の旅に出る許可を得ます。この貴重な経験を通じて、各地の多様な音楽に触れ、多くの著名な作曲家たちと交流する機会を得ました。特に1783年には、楽聖フランツ・ヨーゼフ・ハイドンと出会い、自身が作曲した交響曲を彼に献呈するという出来事がありました。さらに、この旅の途中で、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトも会員であったとされるフリーメイソンのロッジに入会しており、これによりモーツァルト本人との面識があった可能性も指摘されています。

スウェーデンへの帰国後、彼は再びグスタフ3世の宮廷のために、オペラや様々な器楽曲を含む数多くの作品を生み出しました。しかし1792年、パトロンであったグスタフ3世が暗殺されるという悲劇が起こります。クラウスは国王のために追悼音楽、いわゆる「葬送交響曲」や追悼カンタータを作曲しましたが、その間もなく、自身も肺結核によりわずか36歳で短い生涯を終えました。

作風

「スウェーデンのモーツァルト」という彼の異名は、その卓越した作曲能力と作品の質の高さを物語っています。様々なジャンルにおいて、彼は独自の「響き」を持つ優れた作品を数多く残しました。特に、当時の古典派音楽が長調を主体とする傾向にあったにもかかわらず、クラウスは短調を積極的に用い、深い感情表現や劇的な効果を追求した点が彼の音楽の際立った特徴の一つです。

主要作品

クラウスの作品には、ヴァン・ボーア番号（VB番号）が付与されています。以下に主要な作品の一部を挙げます。

交響曲

現在、約12曲の交響曲が現存しています。多くはメヌエットを欠いた3楽章構成です。

交響曲 ハ長調 「ヴァイオリン・オブリガート」 (1780年) VB138
交響曲 ハ長調 (1781年) VB139
交響曲 嬰ハ短調 (1782年) VB140
交響曲 ホ短調 (1783年) VB141
交響曲 ハ短調 (1783年) VB142 （VB140を基に改作され、ハイドンに献呈された）
交響曲 ニ長調 (?) VB143
交響曲 変ホ長調 (1783年) VB144
交響曲 ヘ長調 (1786年) VB145
交響曲 ニ長調 「教会のための交響曲」 (1789年) VB146
教会交響曲 ニ短調 VB147
交響曲 ハ短調 「葬送交響曲」 (1792年) VB148 （グスタフ3世追悼のために作曲）

弦楽四重奏曲

特にOp.1として出版された作品群が知られています。

弦楽四重奏曲 ヘ短調 (1778年、ストックホルム) VB178
弦楽四重奏曲 ハ短調 VB179
弦楽四重奏曲 ホ長調 VB180
弦楽四重奏曲 変ロ長調 《ヴァイオリン》 Op.1-2 (1784年出版) VB181
弦楽四重奏曲 ハ長調 《春》 Op.1-5 (1784年出版) VB182
弦楽四重奏曲 ト短調 《フーガ》 Op.1-3 (1784年出版) VB183
弦楽四重奏曲 ニ長調 《別れ》 Op.1-4 (1784年出版) VB184
弦楽四重奏曲 イ長調 《ゲッティンゲン》 Op.1-1 (1784年出版) VB185
弦楽四重奏曲 ト長調 《ショット四重奏曲》 Op.1-6 (1784年出版) VB187
弦楽四重奏曲 ハ長調 《狩り》 VB186

ピアノソナタ

ピアノソナタ ホ長調 (1788年) VB196

クラウスの音楽は、その劇的な表現や独特の色彩感によって、同時代の作曲家たちとは一線を画しています。近年進む再評価により、彼の作品がより多くの音楽愛好家に知られることが期待されます。

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