ヨーゼフ・ヴィルト

カール・ヨーゼフ・ヴィルト：激動のヴァイマル期を駆け抜けた政治家

カール・ヨーゼフ・ヴィルト（Karl Joseph Wirth, 1879年9月6日 - 1956年1月3日）は、ドイツ中央党の政治家であり、ヴァイマル共和政時代の1921年から1922年にかけて首相を務めました。ドイツ史上最年少の首相として、激動の時代に重要な役割を果たしました。

生い立ちと初期のキャリア

1879年、ヴィルトはバーデン大公国のフライブルクで生まれました。両親のキリスト教的、社会的な活動は彼に大きな影響を与えたと言われています。フライブルク大学で経済学、自然科学、数学を学び、数学の博士号を取得。その後、ギムナジウムの教授として教鞭を執る傍ら、慈善団体の設立や市議会議員を務めるなど、社会活動にも積極的に参加しました。第一次世界大戦中は赤十字に従軍し、看護士として負傷兵の救護に尽力しました。

ヴァイマル共和政での活躍

第一次世界大戦後、ヴィルトはバーデン共和国の財務大臣に就任し、ワイマール憲法制定議会の議員にも選出されました。1920年には中央政府の財務相として入閣し、1921年には中央党、社会民主党、民主党の連立政権を率いて首相に就任しました。41歳という若さでの首相就任は、当時のドイツにおいて異例でした。

首相としてヴィルトは、連合国からの賠償問題や国内の政治的混乱に直面しました。上部シレジアの分割問題では、ドイツの賠償能力への影響を懸念し、抗議の辞任を行うなど、強い姿勢を示しました。しかし、その後再び首相に就任し、賠償義務の履行を通じて賠償額の軽減を目指す「履行政策」を推進しました。また、ソビエト連邦とのラパッロ条約を締結し、国際的な孤立からの脱却を図りました。しかし、この条約は連合国との関係悪化を招き、国内では右派からの激しい批判を浴びました。

1922年、ヴィルトは賠償金支払い問題や共和国防衛法を巡る対立から首相を辞任しました。その後、国旗団に入団し、共和国の防衛に尽力。ミュラー内閣とブリューニング内閣では閣僚を歴任し、左右のテロ対策に尽力しました。

亡命と晩年

ナチ党の権力掌握後、ヴィルトは全権委任法に反対する演説を行い、その後亡命しました。スイスでの亡命生活を送る中、反ナチ運動や連合国との連携を模索し、ナチス・ドイツの反ユダヤ政策の脅威を訴えました。

第二次世界大戦後、ヴィルトは西ドイツに帰国し、西側諸国との同盟を拒否し中立主義を主張。「統一・平和・自由のためのドイツ人連盟」を結成し、東ドイツとの関係を重視する姿勢を示しました。そのため、西ドイツ政府からは年金支給を停止されるなどの圧力を受けましたが、自らの信念を貫き続けました。1956年、ヴィルトはフライブルクで亡くなりました。

ヴィルトの遺産

カール・ヨーゼフ・ヴィルトは、ヴァイマル共和政という激動の時代に、ドイツの舵取りを担った政治家でした。彼の政治姿勢や政策は、国内外に賛否両論を巻き起こしましたが、その行動は、当時のドイツ社会における複雑な政治状況を反映したものでした。今日、ヴィルトは、困難な時代に信念を貫いた政治家として、記憶されています。

彼の「敵は右にいる！」という言葉は、現代においても、政治的な対立構造を考える上で重要な意味を持っています。

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