ヨーハン・パリツィーダ

ヨーハン・パリツィーダ：尊属殺の汚名

ヨーハン・パリツィーダ（Johann Parricida、1290年頃 - ?）は、ハプスブルク家の成員であり、「パリツィーダ（Parricida）」という添え名は「尊属殺」を意味します。

彼は、オーストリア公ルドルフ2世とボヘミア王女アネシュカ（アグネス）の間に生まれ、祖父にはローマ王ルドルフ1世、母方の祖父にはボヘミア王オタカル2世を持つという、由緒ある家柄の出でした。しかし、1308年に伯父であるローマ王アルブレヒト1世を暗殺したことで、その名は歴史に深く刻まれることになります。

生涯

ヨーハンの祖父ルドルフ1世は、オーストリアをハプスブルク家の家領とすることに成功し、1282年に息子のルドルフ2世とアルブレヒト1世をオーストリアの共同統治者としました。しかし、1283年のラインフェルデンの契約によって、兄のアルブレヒト1世が単独のオーストリア公となり、ルドルフ2世とその子孫には、代償として金銭または土地が約束されました。

1290年前後に生まれたヨーハンは、ボヘミアの宮廷で幼少期を過ごし、15歳になるまで伯父アルブレヒト1世の下で養育されました。ラインフェルデンの契約に基づきルドルフ2世が相続するはずだった財産は、アルブレヒトの管理下に置かれていました。15歳になったヨーハンは、アルブレヒトに父の財産の返還を再三求めましたが、アルブレヒトはこれに応じませんでした。

約束が履行されないことに恨みを抱いたヨーハンは、仲間と共にアルブレヒトの暗殺を計画します。1308年5月1日、計画は実行に移され、ロイス川を渡る際に従者と離れたアルブレヒトを、ヨーハンらは襲撃しました。最初にヨーハンがアルブレヒトに斬りつけ、続いて共謀者たちが次々と斬りつけ、アルブレヒトは命を落としました。

アルブレヒトの妻エリーザベトと2人の娘アンナとアグネスは、暗殺犯を徹底的に追及しました。その追及は暗殺犯の家族にも及び、多くの家族がエリーザベトらによって処刑されたと伝えられています。ヨーハンはアルプス山中に逃亡し、姿をくらましましたが、その後の消息は定かではありません。しかし、後年になってピサの僧院で発見され、ローマ皇帝ハインリヒ7世の監視下に置かれたという伝説も残っています。

ヨーハンが暗殺を実行した5月1日は、ハプスブルク家にとって「暗黒の日」とされ、ハプスブルク家では「ヨーハン」という名前は忌み嫌われました。18世紀にアルブレヒト1世を祖とするハプスブルク家の男系がカール6世の代で途絶えるまで、一族に「ヨーハン」という名前が付けられることはありませんでした。

参考文献

江村洋『ハプスブルク家史話』（東洋書林、2004年7月）
エーリヒ・ツェルナー『オーストリア史』（リンツビヒラ裕美訳、彩流社、2000年5月）
* アンドリュー・ウィートクロフツ『ハプスブルク家の皇帝たち』（瀬原義生訳、文理閣、2009年7月）

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