ヨーマン

14世紀半ば以降のイングランドは、百年戦争とペストという未曾有の危機に見舞われました。これらの出来事が、中世イングランドの社会構造、特に封建制度に大きな変化をもたらしたのです。

従来、農民は領主への隷属が一般的でしたが、百年戦争の長期化は財政負担を増大させ、領主の権力基盤を揺るがしました。一方、ペストの大流行は人口を激減させ、労働力不足を深刻化させました。この状況下で、農民は領主に対する依存度を下げ、自立性を強めていきました。

貨幣経済の発展も大きな要因でした。地代が労働から生産物や貨幣へと変化するにつれ、農民は直接領主に奉仕するだけでなく、市場経済に参入する機会を得るようになりました。彼らは自らの生産物を市場で売買し、貨幣を得ることで経済的な自立性を高めていったのです。

ペストによる農奴の大量死は、荘園制度そのものに変化を迫りました。古典荘園、すなわち領主が農民を直接支配するシステムは、労働力不足によって維持できなくなりました。その結果、純粋荘園、つまり農民が地代を支払う代わりに自由な経営を許されるシステムへと移行していったのです。

このような状況下で台頭してきたのが、ヨーマンです。ヨーマンとは、独立した自営農民であり、自らの土地を耕作し、生産物を市場で売買することで生活を支えていました。彼らは領主への直接的な隷属から解放され、経済的にも自立した存在でした。

15世紀に入ると、ヨーマンはイングランド農村において多数派を占めるようになりました。彼らの台頭は、封建貴族の勢力衰退を加速させました。貴族は従来の支配構造を維持することが難しくなり、ヨーマンはイングランド社会における新たな勢力として台頭したのです。

しかし、ヨーマンの社会的地位は均質ではありませんでした。農村内部では、裕福な上層農民と、貧困に苦しむ没落農民との間に大きな格差が生じました。上層農民は、やがてジェントリ階級を形成し、社会的な地位を高めていきます。一方、没落農民は土地を失い、貧困の中で生活を強いられました。この農村内部の格差は、社会不安の要因となり、農村共同体内部に利害対立を引き起こしました。

ヨーマンの興隆は、イングランド社会の変革を象徴する出来事でした。彼らは封建制度の崩壊と、新たな社会秩序の形成に重要な役割を果たしました。しかし、その発展は必ずしも平坦ではなく、農村内部の格差という新たな問題を生み出したことも事実です。ヨーマンの興隆は、中世イングランドから近世イングランドへの移行期における複雑な社会変化を理解する上で重要な鍵となるでしょう。

もう一度検索