ラトナ・マッラ

ラトナ・マッラ

ラトナ・マッラ（Ratna Malla）は、15世紀後半から16世紀初頭にかけてネパールに存在した、カトマンズ・マッラ朝の創始者であり、初代君主です。彼の治世は1484年から1520年まで続きました。

マッラ朝の分裂とカトマンズ王国の成立

ラトナ・マッラの生涯は、統一マッラ朝の崩壊と、ネパール盆地に複数の王国が並立する時代の始まりを告げる出来事と深く結びついています。

1482年、当時のマッラ朝の君主であった父ヤクシャ・マッラが崩御しました。父の跡を継いで王位に就いたのは、彼の長男であるラーヤ・マッラでした。しかし、次男であったラトナ・マッラは、兄ラーヤ・マッラの温厚で柔和な性格を見て、王位継承に対する不満や野心を抱き、兄に対して公然と敵対的な姿勢を示すようになりました。

この兄弟間の対立は急速に激化し、ついには武力衝突へと発展します。1484年、ラトナ・マッラは当時の統一マッラ朝の首都であったカトマンズを武力によって掌握しました。そして、彼はカトマンズにおいて自らを独立した君主であると宣言したのです。このラトナ・マッラの行動により、約2世紀にわたってネパール盆地を支配していた統一マッラ朝は、事実上崩壊しました。以降、ネパール盆地は、ラトナ・マッラが治めるカトマンズ王国、ラーヤ・マッラが支配権を維持したバクタプルを中心とする王国、そして後にヤクシャ・マッラの三男がパータン（パタン）に樹立する王国という、三つの有力なマッラ朝系の王国に分裂し、互いに競い合う時代へと移行することになります。ラトナ・マッラは、この分裂期におけるカトマンズ王国の礎を築いた人物として、ネパールの歴史において重要な位置を占めています。

治世の安定と外部との関係

ラトナ・マッラの治世は、国内の安定化だけでなく、外部からの脅威への対処にも特徴があります。彼の治世中に、チベット系民族の一部であるクク族を名乗る集団が、ネパール領内に侵攻してきました。この未曽有の事態に対し、ラトナ・マッラは単独での対処が困難であると判断し、南方に勢力を持つセーナ王国に支援を求めました。

セーナ王国の君主ムクンダ・セーナは、ラトナ・マッラの要請に応じ、武勇に優れたことで知られるカサ族の部隊を援軍としてネパールに派遣しました。カサ族の援軍は、クク族の侵攻を撃退することに成功し、カトマンズ王国の安全を守ることに貢献しました。侵攻が収まった後、ラトナ・マッラはネパール領内への滞在を希望したカサ族に対し、土地を与えて定住を認めました。この決定は、その後のカトマンズ王国の軍事力に大きな影響を与えます。定住したカサ族は、カトマンズ王国の軍事組織の中核を担うようになり、王国の防衛力強化に貢献しました。このカサ族との関係構築は、ラトナ・マッラの現実的な外交・軍事戦略を示す出来事と言えるでしょう。

後継者

ラトナ・マッラは1520年に逝去しました。彼の死後、カトマンズ王国の王位は、息子のスーリヤ・マッラによって継承されました。ラトナ・マッラが築いたカトマンズ王国は、その後も数世紀にわたりネパール盆地の主要な勢力として存続し、ネパールの歴史において重要な役割を果たしていくことになります。

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