マッラ朝

マッラ朝

ネパールの歴史において、文化的・政治的に重要な時代を築いたマッラ朝は、1200年にアリ・マッラ1世によって創始された王朝です。この王朝は、1769年にゴルカ王国によって滅ぼされるまでの約570年間にわたり、主にネパールの中央部に位置するカトマンズ盆地とその周辺地域を支配しました。

初期と困難

王朝の黎明期は順風満帆ではありませんでした。北方のティルフット王国や、特に南方に強大な勢力を持っていたベンガル・スルターン朝からの頻繁な侵略に晒されました。中でも、ベンガルの君主シャムスッディーン・イリヤース・シャーによる侵攻は、マッラ朝に壊滅的な打撃を与え、王朝は存続の危機に瀕しました。

復興と最盛期

幾多の苦難を乗り越え、マッラ朝は徐々に勢力を回復していきます。15世紀に入ると、1428年に王位に就いたヤクシャ・マッラの統治下で王朝は大きな転換期を迎えました。彼は内政の立て直しに成功し、経済基盤を固めるとともに、積極的に国外へと勢力を拡張しました。このヤクシャ・マッラの治世は、マッラ朝の歴史において最も繁栄した最盛期とされています。

分裂と三都時代

しかし、ヤクシャ・マッラの死後、彼の築き上げた統一体制は長く続きませんでした。後継者争いや地方勢力の台頭などが原因となり、マッラ朝は分裂への道を歩みます。1484年には、古都バクタプルからカトマンズが分離し、独立した王朝が成立しました。さらに1619年には、カトマンズからパタンが独立し、ここにマッラ朝はカトマンズ盆地の主要三都市を拠点とする三つの王朝、すなわちバクタプル・マッラ朝、カトマンズ・マッラ朝、パタン・マッラ朝に分裂しました。これ以降、ネパールの歴史は「三都時代」と呼ばれる混迷期に入ります。

三都の抗争と外部勢力

三つのマッラ王朝は、互いに覇権を争い、複雑な政治的駆け引きや軍事的な衝突を繰り返しました。権力と影響力を拡大するため、三都は同盟を結んだり敵対したりと、絶えず権謀術数を巡らせました。この争いの過程で、三都はカトマンズ盆地の外にあるセーナ王国や、徐々に力をつけつつあったゴルカ王国といった外部勢力の支援を求めたり、あるいはその力を利用したりしました。三都の間の緊張関係と不安定な情勢は、外部勢力、特にゴルカ王国による介入の余地を生み出すことになります。

ゴルカ王国による統一と終焉

三都の対立は、ネパールの西部山岳地帯で力を蓄えていたゴルカ王国にとって好機となりました。ゴルカ王国は当初、三都の一つであるパタンと比較的友好的な関係にありましたが、ゴルカの君主プリトビパティ・シャハの時代から、三都間の争いへの積極的な介入を始めました。彼は権謀術数を用いて三都を弱体化させる戦略を採用し、その方針は後継者のナラ・ブーパール・シャハ、そしてネパールを統一する偉業を成し遂げるプリトビ・ナラヤン・シャハへと引き継がれました。ゴルカ王国は、三都の分裂と相互不信を巧みに突いて、カトマンズ盆地への進出を着々と進めました。

そして、ゴルカ王国の統一事業が本格化すると、マッラ朝の三都は次々とゴルカ軍の前に屈服します。プリトビ・ナラヤン・シャハ率いるゴルカ軍は、1768年にまずカトマンズとパタンの各マッラ朝を制圧しました。翌1769年には、最後まで抵抗を続けたバクタプル・マッラ朝も滅ぼされました。これにより、約570年間にわたるマッラ朝の歴史は幕を閉じました。三都マッラ朝の滅亡は、ネパールの歴史における大きな転換点であり、プリトビ・ナラヤン・シャハによって統一された新たなネパール王国の時代がここから始まったのです。この出来事は、現在のネパール国家の礎が築かれた重要な一歩となりました。

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