ラピス・ニゲル

ラピス・ニゲル：ローマ最古の謎を秘めた遺跡

ラピス・ニゲル（黒い石）は、古代ローマのフォルム・ロマヌムに位置する、黒い大理石で覆われた神聖な遺跡です。その起源は古く、王政ローマ期、もしくはそれ以前まで遡ると考えられています。周囲をコンクリートで囲まれたその様相は、神殿、もしくは記念碑であった可能性を示唆しています。

幾重にも重なる歴史

ラピス・ニゲルの歴史は、複雑で、幾層にも重なった歴史を秘めています。ユリウス・カエサルやトゥッルス・ホスティリウスによるフォルム再編工事との関連性が指摘されており、それ以前から存在した祭壇や聖域の上に築かれた可能性があります。

その名称は、遺跡から発見された最古のラテン語碑文が刻まれた黒い大理石の石碑に由来すると言われています。この碑文には「rex（王）」の文字があり、王政ローマ期の王、または共和政ローマ初期の高位神官rex sacrorumを指していると考えられています。

ローマ建国神話のロームルスにまつわる伝説も残されています。ラピス・ニゲルは、ロームルスの墓、もしくは彼暗殺の場所、あるいはロームルスの養父ファウストゥルスが兄弟の争いを仲裁中に殺された場所だと伝えられています。他にも、トゥッルス・ホスティリウスの父ホストゥス・ホスティリウスの墓であるとする伝説も存在します。

最古の文献では、ラピス・ニゲルはsuggestumと呼ばれ、王政ローマ期の王が民衆や元老院議員への演説を行った場所とされています。エトルリア後期からローマ初期にかけて一般的な2つの祭壇の存在も確認されています。

幾度かの改修と新たな発見

ラピス・ニゲルは、その歴史の中で幾度かの改修を受けてきました。火災や略奪によって破壊された後、黒い大理石の板の下に埋められたと推測されています。この作業はスッラ、もしくはユリウス・カエサルが行ったとする説があります。

元々は黒い大理石の石碑が中心であり、そこには神殿への冒涜に対する呪いの言葉が刻まれていたとされます。後に祭壇が追加され、さらにその前に獅子像があったと伝えられています。また、記念柱が追加され、その頂上には何らかの像が置かれていたと推測されています。

発掘調査では、意図的に置かれた礫層から花瓶の破片、彫像、動物の生贄の断片などの捧げ物が発見されました。これらは紀元前7世紀から5世紀のもので、ラピス・ニゲルの宗教的な重要性を示唆しています。

紀元前1世紀には、フォルムの開発に伴い、以前のラピス・ニゲルは取り壊され、より簡素な神殿が建設されました。黒い大理石を敷き詰め、低い白い壁で囲まれたこの新たな神殿は、演壇ロストラのすぐ近くに位置していました。

古ラテン語碑文の特徴

ラピス・ニゲルから発見された最古のラテン語碑文は、いくつかの興味深い特徴を持っています。文字は他のラテン語の碑文よりもギリシア文字に近く、クマエのようなイタリアのギリシア植民都市の碑文に類似しています。また、牛耕式と呼ばれる、1行ごとに書き方向が逆転する書法が用いられています。これは古いラテン語の碑文に多く見られる特徴です。

近年の状況

2008年の豪雨により、ラピス・ニゲルを保護していたコンクリート製の覆いが損傷を受けました。修理の間、天幕で保護されていたため、約50年ぶりに遺跡本体が一般公開されました。

ラピス・ニゲルは、ローマ建国神話の謎、古代ローマの宗教儀礼、そして最古のラテン語の痕跡など、多くの謎を秘めた古代ローマの重要な遺跡です。今後の研究によって、さらに多くの事実が明らかになることが期待されています。

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