ラフレシア・アルノルディイ

ラフレシア・アルノルディイ（学名：Rafflesia arnoldii R.Br.）は、インドネシア、特にスマトラ島に分布する全寄生植物です。自ら光合成を行わず、他の植物、主にブドウ科のミツバカズラ属の植物の茎や根に寄生して養分を得て生活しています。この植物の最大の特徴は、地上に姿を現す部分のほとんどが巨大な花であり、一般的な植物に見られる根、茎、葉といった器官が極端に退化している点にあります。

その花は世界最大級として知られ、開花時の直径は大きいもので1.5メートルにも達することがあります。全体的に赤みがかったオレンジ色をしており、厚みのある肉質な5枚の花弁を持っています。花弁の表面には、黄色がかった不規則ないぼ状の突起が多数見られます。つぼみの状態では、光沢のある巨大なキャベツのような姿をしていますが、開花には約2日間を要し、ゆっくりと花弁を広げます。花弁の基部は互いに融合し、湾曲した筒状の花筒を形成し、その中心にあるずい柱（生殖器官を含む構造）を取り囲んでいます。

花内部は複雑な構造をしており、内側に向かって突き出したつぼ状の覆いがあり、その中央部は大きく開いて深いくぼみとなっています。このくぼみの底には円盤状の構造（盤状体）があり、その表面には30個ほどの角のような突起が並んでいます。子房は花の下部に位置する下位子房で、内部には数えきれないほどの胚珠を含んでいます。ラフレシア・アルノルディイは雌雄異株であり、雌花と雄花は別の個体に咲きます。

開花期のラフレシア・アルノルディイは、強烈な腐肉のような臭いを放ちます。この異様な臭いは、ハエなどの昆虫を引き寄せるためのものであり、これらの昆虫が送粉者としての役割を担っています。雄花を訪れたハエは、中心のずい柱の縁の下部にある毛に導かれて葯（花粉を作る部分）に到達する過程で、粘着性のある花粉を背中などに付着させます。一方、雌花を訪れたハエは、同様にずい柱の縁の下部にある花柱（花粉を受け取る部分）の周囲の毛によって、背中に付着した花粉を掻き取られるように受け取られ、これによって受粉が完了します。

無事受粉が成立すると、約8ヶ月という長い時間をかけて、こぶしほどの大きさの果実が成熟します。この果実の中には、極めて微細な種子が数百万個もぎっしりと詰まっています。果実が成熟して壊れるなどすると、中の種子は周囲に散布されますが、この種子散布には小型の哺乳類や、アリやシロアリといった地上性の昆虫が関わっていると考えられています。

この驚異的な植物の学名『Rafflesia arnoldii』は、1818年にインドネシア（当時はイギリス領の一部）のベンクーレンにおいて、イギリスのトーマス・スタンフォード・ラッフルズ卿と、彼に同行した植物学者ジョゼフ・アーノルドによって発見されたことにちなんで名付けられました。彼らはこの未知の巨大な花に遭遇し、その学術的な記録を残した最初のヨーロッパ人となりました。ラフレシア・アルノルディイは、そのユニークな形態と生態から、植物学だけでなく、生態学や保全生物学の観点からも注目されています。

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