『ラム』(Ram)
1971年に発表された『ラム』は、
ポール・マッカートニーと彼の妻
リンダ・マッカートニーの共同名義でリリースされた初の公式アルバムです。前作のソロアルバム『マッカートニー』ではポールがほぼすべての楽器を一人で担当していましたが、今作では選りすぐられた外部のセッション・ミュージシャンが多数参加しており、サウンドの厚みが増しています。
アルバムの制作は、1970年秋にポールと家族が
ニューヨークへ移住したことから始まりました。ポールはまず、共に演奏するミュージシャンの選考に着手。セッション・
ギタリストの
デヴィッド・スピノザと
ヒュー・マクラッケン、そして後に
ウイングスの初期メンバーとなる
ドラマーのデニー・シーウェルらが起用されました。これらの才能あふれるミュージシャンとの共演が、本作の多様な音楽性に寄与しています。
レコーディングは、1970年10月初旬頃から
ニューヨークのCBSスタジオでスタートし、その大半がここで収録されました。その後、1971年2月からは同じく
ニューヨークのA&Rスタジオにて、楽曲へのオーバーダビング作業が進められます。この段階で、
ビートルズ時代のプロデューサーとしても知られる
ジョージ・マーティンの手配により、
ニューヨーク・フィルハーモニックによる
オーケストラの演奏が加えられ、楽曲に壮大な彩りが添えられました。最終的なオーバーダビングとミキシングは、翌3月にロサンゼルスのサウンド・レコーダーズ・スタジオで行われ、アルバムは完成に至りました。
リンダ・マッカートニーは、全曲でバッキング・ボーカルを務めたほか、数曲ではポールとリードボーカルを分担し、デュエットを披露しています。彼女の柔らかな歌声は、アルバム全体の温かく親密な雰囲気に欠かせない要素となっています。
発表当時のチャート成績は、イギリスで2週連続の第1位、アメリカのビルボード誌では最高第2位を記録し、トップ10内に24週間もランクインするロングヒットとなりました。キャッシュボックス誌でも最高第2位を獲得しています。年間ランキングでは、ビルボード誌で第38位、キャッシュボックス誌で第9位にランクイン。アメリカ国内だけで100万枚以上のセールスを達成するなど、商業的にも成功を収めました。
本作からは、いくつかの楽曲がシングルカットされました。特に「
アンクル・アルバート〜ハルセイ提督」は、北米および南米地域でリリースされ、アメリカでは全米1位を獲得する大ヒットとなり、第14回
グラミー賞では最優秀アレンジメント賞を受賞するという快挙を成し遂げました。イギリスやユーゴスラビアでは「バック・シート」が、日本やヨーロッパ地域では「出ておいでよ、お嬢さん」がシングルとして発売されるなど、各国の市場特性に合わせて異なる楽曲が選ばれています。また、本作の
ボーナス・トラックとして、ポールにとって初のソロシングルであり、世界的にヒットした「アナザー・デイ」も収録されました。
収録曲は、ポールのペンによる楽曲を中心に、リンダとの共作も多数含まれており、バラエティ豊かな内容です。「
トゥ・メニー・ピープル」、「3本足」、「
アンクル・アルバート〜ハルセイ提督」、「故郷のこころ」、「モンクベリー・ムーン・デライト」、「バック・シート」などが代表的な楽曲として挙げられます。
アルバムリリース後、ポールは『パーシー“スリルズ”スリリントン』という変名を用いて、本作の全収録曲を
オーケストラで演奏したカバーアルバム『スリリントン』を発表しています。
長年にわたりファンに愛され続ける本作は、何度かリマスタリングされて再発売されています。1993年には「
ポール・マッカートニー・コレクション」の一環としてボーナストラックを追加して再発。さらに2012年には、「
ポール・マッカートニー・アーカイヴ・コレクション」として、最新のリマスタリングが施された通常盤に加え、未発表音源やデモ、映像などを多数収録した豪華なデラックス・エディションやスーパー・デラックス・エディションがリリースされ、再び注目を集めました。現在では、アメリカの音楽雑誌『
ローリング・ストーン』誌が選ぶ「歴代最高のアルバム500選」にもリストアップされるなど、名盤として高い評価を得ています。
主なレコーディングメンバー
ポール・マッカートニー:ボーカル、様々な楽器(ベース、ギター、
ピアノ、ドラムスなど)
リンダ・マッカートニー:バッキング・ボーカル、リードボーカル(「ロング・ヘアード・レディ」)
デヴィッド・スピノザ:ギター
ヒュー・マクラッケン:ギター
デニー・シーウェル:ドラムス
ヘザー・マッカートニー:バッキング・ボーカル(「モンクベリー・ムーン・デライト」)
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ニューヨーク・フィルハーモニック:
オーケストラ演奏(「
アンクル・アルバート〜ハルセイ提督」、「バック・シート」)