ランチメイト症候群

ランチメイト症候群とは

ランチメイト症候群は、精神科医の町沢静夫氏によって提唱された、学校や職場で共に食事をする相手（ランチメイト）がいないことへの強い恐怖感や不安感を指す言葉です。この心理状態は、単に一人で食事をすることへの抵抗感だけでなく、自己の存在価値を否定的に捉えてしまう深刻な悩みに繋がることがあります。

この症候群は、公式な医学用語ではありませんが、2001年頃からメディアで取り上げられたことをきっかけに広く知られるようになりました。発端は、町沢氏が受けた相談の中で、相談者が食事を共にする相手を「ランチメイト」と表現したことにあります。相談者は、一人で食事をすることに対する恐れや、一人で食事をする自分は人間として価値がないのではないかという不安を訴えました。

ランチメイト症候群の症状

ランチメイト症候群の当事者は、「一人で食事をすることは、友人や同僚がいない証拠であり、それは自分に魅力がないからだ」と考えがちです。そして、周囲から「魅力のない人間」と見なされることを極度に恐れます。そのため、周囲に拒絶されることを恐れて、自ら食事に誘うことができず、ランチメイトを確保できない状況に陥ります。

ランチメイトが見つからない場合、一人で食事をしている姿を周囲に見られないように、図書館やトイレに隠れて食事をすることがあります。極端な場合は、食事を摂ることを諦めたり、学校や職場へ行くことを拒否するようになることもあります。

ランチメイト症候群の背景

ネットでのアンケート調査では、1～2割の人が一人で食事をすることに抵抗を感じており、特に女性に多い傾向が見られます。町沢氏は、自身の著書で若い男性にもその傾向が見られるものの、大学生や20代の女性を中心に症状が現れると指摘しています。日本の女性は、特に集団行動を好む傾向があり、一人でいることに抵抗を感じやすいと考えられています。周囲からの評価を過度に気にする心理が、ランチメイト症候群の背景にあると考えられます。

町沢氏は、ランチメイト症候群の根底には、日本の「村八分」のような集団心理があるとしていますが、コミュニケーション論を研究する辻大介氏は、同様の傾向はアメリカの若者にも見られると指摘し、先進国に共通する特徴ではないかと述べています。また、辻氏は、このような感受性の高い人は、募金やボランティアなどの社会活動に積極的で、他者への信頼も高い傾向にあるとし、他者への細やかな気遣いの表れであると指摘しています。

ひとりじゃいられない症候群との関連

諸富祥彦氏は、ランチメイト症候群のような、集団から孤立することを恐れる心理を「ひとりじゃいられない症候群（孤独嫌悪シンドローム）」と名づけ、「ひとりでいられる能力」の重要性を説いています。法政大学教授の尾木直樹氏も、孤立を恐れる大学生の心理について、高校時代における他人との関わりや生活体験の不足が原因ではないかと指摘しています。

ランチメイト症候群の現状

一方で、一人で食事をすることに落ち着きを感じる人が増えているのも事実です。コロナ禍の影響もあり、一人で食事をしやすい環境も整ってきています。

ランチメイト症候群は、社会的なつながりが希薄になりつつある現代社会において、誰もが抱える可能性のある心理的な課題と言えるかもしれません。

参考資料

書籍『孤独であるためのレッスン』諸富祥彦

関連用語

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* 便所飯

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