ランテルヌ・ルージュ

ランテルヌ・ルージュ：ツール・ド・フランス最下位の称号を巡るドラマ

ランテルヌ・ルージュ（lanterne rouge）は、ツール・ド・フランスのような自転車ロードレースにおいて、総合順位が最下位の選手に与えられる非公式な称号です。「赤いランタン」を意味するフランス語で、列車最後尾に吊るされた赤いランプに由来すると言われています。

公式な賞ではありませんが、長年の歴史の中で独特な存在感を放ち、時には最下位を巡る激しい争いが繰り広げられることもありました。

ランテルヌ・ルージュとは

ツール・ド・フランスにおいて、途中棄権せずに完走した最下位の選手は、敬意を込めて「ランテルヌ・ルージュ」と呼ばれます。この称号は、単なる不名誉ではなく、完走者としての誇りを示すものでもあります。

知名度が高いため、レース終盤では、敢えて最下位を狙う選手も現れます。非公式ながらスポンサーから賞が贈られることもありますが、大会運営側は公式には認めていません。

ランテルヌ・ルージュの語源

「ランテルヌ・ルージュ」という言葉の起源には諸説あります。ジャーナリストのアルベール・ロンドルが著書で使用したのが最初という説もあれば、アンリ・デグランジュが1909年の最下位選手を指して呼んだのが最初という説もあります。

かつては、最終ステージで赤いランタンを持たされた選手が、パリのゴール地点で大歓迎を受け、クリテリウム（レース後のイベント）に招待されて賞金を稼ぐこともありました。しかし、プロ選手の収入が増えた現在では、クリテリウム出場の魅力は低下しています。

ランテルヌ・ルージュへの賛否

ランテルヌ・ルージュに対しては、否定的な意見もあります。ツール・ド・フランスのディレクターを務めたジャン＝マリー・ルブランは、ランテルヌ・ルージュを「過去の遺物」と表現しました。また、元選手で反ドーピング倫理運動組織の会長を務めるロジェ・ルジェは、「全力を尽くすというロードレースの哲学に反する」と批判しています。

ランテルヌ・ルージュを巡るエピソード

1976年：後続の車列に隠れる

アーツ・ファン・デン・フクは、エースのアシストとしてレースに参加していましたが、エースがリタイアすると、ランテルヌ・ルージュを狙うことに。ゴール手前で車列に紛れて時間を稼ぎ、見事最下位を獲得しました。

1978年、1979年：「最下位対決」

1978年のランテルヌ・ルージュであるフィリップ・テスニエールは、二年連続の最下位を狙い、ゲルハルト・シェーンバッハーと激しいデッドヒートを繰り広げました。タイムトライアルでは、二人揃って故意に遅く走り、失格になりかけましたが、最終的にシェーンバッハーがランテルヌ・ルージュを獲得しました。しかし、彼はゴール前で自転車から降りてパフォーマンスをしたため、大会運営側の怒りを買い、翌年から最下位の選手を失格にするというルールが導入される事態となりました。

2006年〜2008年：アシストとして働きつつ三連覇

ウィム・ファンセフェナントは、チームのエースをアシストしながら、2006年から2008年まで三年連続でランテルヌ・ルージュを獲得しました。彼は、「ランテルヌ・ルージュは狙って取るものではなく、天からの授かりもの」と語っています。

2018年：全ステージ最下位

ローソン・クラドックは、第1ステージで落車し大怪我を負いながらも完走。全ステージで最下位となり、史上初の記録を打ち立てました。彼は、自身の完走を、ハリケーン被害を受けた自転車競技場の再建支援のための寄付に繋げ、多くの人々の心を打ちました。

複数回ランテルヌ・ルージュになった選手

スペインのフロレス兄弟は、兄のイゴールが2002年に、弟のイケールが2005年にランテルヌ・ルージュを獲得しています。

ランテルヌ・ルージュの国別回数

ツール・ド・フランスにおけるランテルヌ・ルージュ獲得回数は、長らくフランスが最多でしたが、近年は他国の選手が数を増やし、フランスと並んでいます。

まとめ

ランテルヌ・ルージュは、ツール・ド・フランスにおける単なる最下位の称号ではありません。そこには、選手の意地、チーム戦略、そして人間ドラマが詰まっています。時に批判も浴びますが、ランテルヌ・ルージュは、ツール・ド・フランスの歴史を彩る重要な要素の一つと言えるでしょう。

もう一度検索