アンリ・デグランジュ

アンリ・デグランジュ：ツール・ド・フランスの父

アンリ・デグランジュ (1865-1940) は、フランスの自転車競技選手であり、ジャーナリストとして名を馳せました。しかし、彼の名を不朽のものとしたのは、ツール・ド・フランスの創設と発展への貢献です。一般的に、ツール・ド・フランスの生みの親、あるいは父と呼ばれています。

生い立ちと自転車競技選手としてのキャリア

1865年、パリに生まれたデグランジュは、1891年、ボルドー〜パリ自転車レースを観戦したことがきっかけで、自転車競技の世界に足を踏み入れました。そして1893年には、パリのビュファロ自転車競技場でアワーレコードを樹立、実力派選手として頭角を現しました。その後、パリの自転車競技場であるパルク・デ・プランスや、フランス初の室内自転車競技場であるヴェロドローム・ディヴェールの責任者を歴任するなど、自転車競技界での地位を盤石なものにしていきました。

ツール・ド・フランス創設への道

デグランジュがツール・ド・フランスの創設に深く関わったのは、1894年のドレフュス事件がきっかけでした。この事件を巡る世論の対立は、スポーツ新聞界にも波及し、親ドレフュス派の『ル・ヴェロ』に対抗するため、反ドレフュス派の新聞『ロト』が1900年に創刊されました。デグランジュは『ロト』の編集長に就任し、発行部数で『ル・ヴェロ』を圧倒することを目指しました。

その戦略として考案されたのが、ツール・ド・フランスでした。レースの原型は、1902年、当時『ロト』の自転車競技編集部のチーフであったジェオ・ルフェーヴルが提案したもので、フランス一周を6日間で完走するという大胆な企画でした。この案に賛同したデグランジュと経理担当役員ヴィクトル・ゴデによって実現へ向けた動きが加速し、1903年1月には、同年7月の第1回開催が発表されました。

しかし、当初デグランジュはレースに懐疑的でした。実際、1903年7月1日のスタートにも姿を見せなかったほどです。これは、彼自身がピレネー山脈を含む山岳コースを導入すべきだと主張したものの、選手からの反対（「熊が出たらどうするんだ！」という懸念があったと伝えられています）で却下されたことと関係していると考えられます。最終的に、山岳コースが導入されるのは1910年からでした。

ツール・ド・フランスのレース・ディレクターとして

1904年、デグランジュはツール・ド・フランスのレース責任者となり、パリの最終ゴール地点をパルク・デ・プランスに決定。このゴール地点は1967年まで使用されました。同年、総合2連覇を果たしたモリス・ガランが不正行為によって失格となる事件が発生しますが、これはデグランジュが厳格なルールを適用した結果でした。この事件をきっかけに、翌1905年から1912年まではポイント制が採用されることになります。また、1919年には、現在でも象徴的な存在であるマイヨ・ジョーヌ（黄色のジャージ）を導入しました。

デグランジュは、歯に衣着せぬ発言でも知られていました。特に、1923年優勝者のアンリ・ペリシエを痛烈に批判したことで両者の関係は悪化、ペリシエが1924年のレース初日にマイヨ・ジョーヌを脱ぎ捨てる事態にまで発展しました。さらに、1929年のレースでは、ヴィクトル・フォンタンの不運なリタイアや、優勝者モリス・デワールの所属チームによる不正行為が発覚したことを受け、1930年からはトレードチームの参加を禁止し、国・地域別対抗戦形式へと変更しました。

デグランジュの厳格な運営とツール・ド・フランスの人気が相乗効果を生み出し、『ロト』の発行部数は、ツール・ド・フランス開催前には2万5000部程度だったものが、1933年には85万4000部まで増加しました。しかし、1936年に病気のため、レース責任者の座をヴィクトル・ゴデの息子ジャック・ゴデに譲り、1940年8月16日、ボーヴァロンの自宅で亡くなりました。現在も、ツール・ド・フランスでは、最高標高地点を通過した選手に「アンリ・デグランジュ記念賞」が授与されており、彼の功績が称えられています。

関係者

モーリス・ルブラン：当時珍しかった自転車や自動車の愛好家であり、デグランジュの依頼で『ロト』紙に短編小説を多数寄稿しました。

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