ランディー・バーンズ

ランディー・バーンズ（Randy Barnes）は、1966年 6月16日にアメリカ合衆国ウェストバージニア州チャールストンで生まれた、才能あふれる元砲丸投選手です。彼はその輝かしい競技成績と共に、ドーピング問題によってもその名を知られています。オリンピックの舞台では、1988年のソウル大会で銀メダル、1996年のアトランタ大会で金メダルを獲得するという偉業を成し遂げました。

彼の陸上競技人生は、高校時代に砲丸投を始めたことからスタートしました。セイント・アルバンス高校在学中、1985年には5.4キログラムの砲丸で20メートル36センチという目覚ましい記録をマークし、早くからその非凡な才能を見せつけます。高校卒業後、テキサスA&M大学に進学すると、7.27キログラムのフルサイズ砲丸を使用し、ランディ・マットソンが保持していた大学記録を更新する21メートル88センチを投げ、全米の注目を集める選手へと成長しました。

大学在学中の22歳で迎えた1988年、彼はソウルオリンピックのアメリカ代表として初めて世界の舞台に立ちました。この大会でバーンズは22メートル39センチを記録し、東ドイツのウルフ・ティンマーマンの22メートル47センチに惜しくも及ばず銀メダルを獲得しました。初めてのオリンピックでメダルを手にしたことは、彼の競技キャリアにおいて大きな一歩となりました。

オリンピック後もバーンズの勢いは止まりませんでした。1989年 1月20日、ロサンゼルスで開催されたサンキスト・インビテーションにおいて、彼は室内砲丸投で22メートル66センチという驚異的な記録を樹立しました。これは当時の室内世界新記録であり、この時点での自身の屋外における自己記録をも上回る投擲でした。

さらに1990年 5月20日には、屋外砲丸投においてウルフ・ティンマーマンが持っていた世界記録を更新する23メートル12センチをマークし、世界の頂点に立ちました。しかし、同年8月7日、スウェーデン・マルメでのドーピング検査において、筋肉増強剤であるメチルテストステロンの陽性反応が出てしまいます。この結果、国際陸上競技連盟（IAAF、現ワールドアスレティックス）から27ヶ月間の競技参加停止処分が科されました。バーンズは処分撤回を求めて裁判を起こしましたが、訴えは認められず敗訴。この長期にわたる出場停止期間のため、1992年のバルセロナオリンピックへの出場は叶いませんでした。

出場停止期間を終え、競技に復帰したバーンズは、再びオリンピックの舞台を目指しました。そして1996年、自国開催となるアトランタオリンピックに出場します。この大会で、彼は最終投擲で21メートル62センチという逆転の一投を見せ、8年前にソウルで逃した金メダルをついに手にしました。この劇的な勝利は、彼の不屈の精神を示すものとなりました。

しかし、彼のキャリアは再び薬物問題に直面します。1998年、彼は野球選手のマーク・マグワイアが使用していたことでも知られる市販の補助薬に含まれる筋肉増強剤、アンドロステンジオンの陽性反応を示しました。バーンズ自身はアンドロステンジオンが禁止薬物であることを知らなかったと主張しましたが、聞き入れられることはなく、二度目のドーピング違反により競技資格を永久に剥奪されるという厳しい処分が下されました。これにより、彼の競技人生は突然の終わりを告げました。

バーンズが1990年に樹立した屋外世界記録23メートル12センチは、長らく破られることのない不滅の記録とされていましたが、31年後の2021年6月18日、同じアメリカの選手であるライアン・クルーザーによって23メートル37センチがマークされ、ついに更新されました。ランディー・バーンズの競技人生は、世界最高峰の記録と栄光、そしてドーピングによる失墜という、光と影が色濃く交錯するものでした。彼の名は、砲丸投の歴史において、偉大な記録保持者として、またドーピング問題の象徴としても記憶されています。

記録

砲丸投（屋外）: 23m12（1990年 5月20日、当時世界記録）
砲丸投（室内）: 22m66（1989年 1月20日、当時世界記録）

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