ラ・シガール

ラ・シガール（La Cigale）

フランスの首都パリ18区、賑やかなロシュシュアール大通りに位置する「ラ・シガール」は、19世紀末からパリの文化シーンの中心であり続けている歴史ある劇場です。「ラ・シガール」という名称はフランス語で「蝉」を意味し、その名の通り、賑やかで生命力あふれる芸術の発信地としての役割を担ってきました。この劇場は、1階のスタンディング形式で最大1,389名、全席を着席させた場合は954名を収容する能力を備えています。

歴史の変遷

ラ・シガールの歴史は、1887年に始まります。かつてキャバレー「ブール・ノワール」が存在した場所に、新しいスタイルの音楽喫茶（カフェ・コンセール）として誕生したのがその第一歩でした。

開業からわずか7年後の1894年には、建築家アンリ・グランピエールによる大規模な改築と増築が実施され、劇場の設備と外観が大きく生まれ変わりました。この改築では、画家アドルフ・ウィレットによって天井に新たな絵画が描かれ、空間の芸術的な価値を高めました。この時期の舞台には、ミスタンゲット、モーリス・シュヴァリエ、イヴォンヌ・プランタン、アルレッティ、レイミュ、マックス・ランデーといった、当時のフランス芸能界を代表する輝かしいスターたちが次々と出演し、ラ・シガールはパリ随一のエンターテイメント劇場として黄金期を迎えました。

1920年代に入ると、ラ・シガールではオペレッタやヴォードヴィルといった軽妙な演劇が盛んに上演されるようになり、大衆の娯楽の中心となりました。また、詩人・作家・芸術家として知られるジャン・コクトーが企画する前衛的なソワレ（夜会）も頻繁に催されるなど、多様な文化活動の場としても機能しました。1924年には、劇場の地階に趣のあるキャバレーがオープンし、夜遅くまで多くの人々で賑わいました。

しかし、1927年にはラ・シガールはいったんその幕を下ろし、「ラ・フルミ（La Fourmi）」と名前を変えた小さなミュージックホールとして運営されることになります。

さらに時代が下り、1940年頃からは劇場はその姿を大きく変え、映画館として利用されるようになりました。当初は時代の流行を反映した人気作品を上映していましたが、1970年代にはカンフー映画がブームとなり専門的に上映、その後は成人指定映画を扱うようになるなど、上映する作品のジャンルは変化していきました。

転機が訪れたのは1981年です。ラ・シガールのエントランスホールと主要な空間であるオーディトリアムが、フランスの重要な歴史的建造物として正式に指定されました。これにより、劇場の建築的な価値と歴史的な意義が公的に認められることとなりました。

そして1987年、歴史的建造物としての指定を受けてから6年後、ラ・シガールは多目的ホールとしての新たな命を吹き込まれ、再オープンを果たしました。この再生プロジェクトは、有名なナイトクラブ「レ・バン・ドゥーシュ」の創設者であるジャック・ルノーとファブリス・コートが運営を引き継ぎ、リニューアルデザインは国際的に活躍するデザイナーのフィリップ・スタルクが、芸術監督はコリーヌ・ミムラムがそれぞれ担当しました。再開のこけら落とし公演は、フランスの人気ニューウェーブバンド、レ・リタ・ミツコが行い、新たな時代の幕開けを飾りました。

再オープン後、ラ・シガールはコンサート、演劇、コメディ、クラブイベントなど、幅広いジャンルのパフォーマンスに対応できる多目的スペースとして、再びパリの文化シーンで重要な役割を担うようになりました。

2007年にはフランスの通信会社SFRとの提携により、2年間限定で「ラ・シガールSFR」という名称が使用された時期もありました。また、2011年1月には、ジャン＝ルイ・メナントー氏が新たな総監督に就任し、劇場の運営を牽引しています。

多彩な公演と著名な出演者

多目的ホールとして再生して以降、ラ・シガールの舞台には国内外から数多くのアーティストが登場しています。特に、日本のアーティストもこの歴史ある劇場で公演を行っており、その名前は多岐にわたります。例えば、1992年には加藤登紀子、2005年には坂本龍一とアルヴァ・ノト、2009年と2018年にはKOKIA、2013年にはきゃりーぱみゅぱみゅ、DIR EN GREY|DIR_EN_GREY、℃-ute、2014年にはMIYAVI、BABYMETALといったアーティストが、このラ・シガールの観客を魅了しました。

アクセス

ラ・シガールへのアクセスは、パリの公共交通機関を利用するのが便利です。パリ・メトロの2号線または12号線の「ピガール駅（Pigalle）」からは徒歩およそ3分、また2号線の「アンヴェール駅（Anvers）」からも徒歩およそ4分と、いずれの駅からも容易にアクセスできます。パリ観光の際に、その歴史と雰囲気を体感するために訪れる価値のある劇場です。

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