ラ・ジュテ

ラ・ジュテ (La Jetée)

概要

『ラ・ジュテ』は、1962年に公開されたフランスのSF短編映画です。クリス・マルケル監督が、時間と記憶という普遍的なテーマを、独自の映像表現で描き出しました。原題の「La Jetée」は、港の突堤や空港のボーディング・ブリッジを意味します。この映画は、SF的な設定でありながら、特殊な美術や視覚効果に頼らず、モノクロ写真の連続という手法で物語を紡ぎ出しています。上映時間は29分と短く、その中に凝縮された深いテーマと独特の映像表現は、多くの観客や批評家を魅了しました。

1962年2月16日にフランスで公開され、1963年にはトリエステSF国際映画祭でグランプリを受賞、さらにジャン・ヴィゴ賞（短編部門）も受賞するなど、高い評価を受けました。1966年には「世界前衛映画祭」で上映され、その芸術性が広く知られるようになりました。また、シナリオは『映画評論』や『映画芸術』といった専門誌にも掲載され、映画ファンや研究者の間で議論を呼びました。

ストーリー

物語は、第三次世界大戦後の荒廃したパリを舞台に展開します。放射能汚染を避けて地下に逃れた人類は、「支配者」と「奴隷」に分かれて暮らしていました。支配者たちは、時間旅行の技術を開発し、過去や未来から資源を得ようと試みます。実験には多くの奴隷が犠牲になりますが、その中で、ある男に時間旅行の能力が開花します。

男は、少年時代にオルリー空港の展望デッキで目撃した、ある女性と男性の死という強烈な記憶に取り憑かれていました。その記憶こそが、過酷な時間旅行に耐える力となっていたのです。彼は過去へと旅を繰り返し、記憶の中の女性と再会し、愛を育みます。しかし、実験が成功し、男は未来へと旅立つことを命じられます。

未来で、彼は世界を救うエネルギーを持ち帰ることに成功しますが、未来人から永住を勧められます。しかし、彼は女性の待つ過去へと戻ることを選びます。男が過去に戻ると、女性はオルリー空港の展望デッキにいました。男が駆け寄ろうとした瞬間、支配者側の暗殺者が彼を射殺します。それは、まさに男が少年時代に見た光景そのものでした。男は、自分が過去の記憶の中に生きていたことを悟りながら、息絶えるのです。

キャスト

女 - エレーヌ・シャトラン
男 - ダヴォス・ハニッヒ
実験者 - ジャック・ルドゥー
ナレーター - ジャン・ネグローニ
未来の女 - リジア・ブラニツェ
その他 - アンドレ・アンリシュ
日本語版ナレーション - 大塚明夫

スタッフ

監督・脚本・撮影 - クリス・マルケル
製作 - アナトール・ドーマン
音楽 - トレヴァー・ダンカン
編集 - ジーン・ラベル

作品の特徴

『ラ・ジュテ』は、その独特な映像表現が際立っています。映画は、モノクロ写真の連続で構成されており、ほとんど静止画で物語が展開されます。この手法は、観客に時間と記憶に対する深い思索を促します。また、SF的な設定でありながら、人間ドラマとしての側面も強く、登場人物の感情や葛藤が丁寧に描かれています。

時間旅行というSF的な要素を扱いながら、その本質は人間の記憶や愛、そして運命という普遍的なテーマを描いています。その斬新な表現と深いテーマ性は、後世の映画作家たちに大きな影響を与えました。

参考文献

阪本裕文「前衛記録映画論の戦後的意味 : 1970年までの松本俊夫の諸活動をもとに」『芸術研究科 2016年度 博士論文』、京都精華大学大学院、2017年3月、38頁

外部リンク

ラ・ジュテ - allcinema
La Jetée - IMDb（英語）

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