ラ・ロシェル包囲戦

ラ・ロシェル包囲戦：17世紀フランスを揺るがした攻防

1627年から1628年にかけて、フランス西部のラ・ロシェルで繰り広げられたラ・ロシェル包囲戦は、フランス国王ルイ13世とユグノー（フランスのプロテスタント）との間で勃発した内戦です。この戦いは、カトリックとプロテスタントの宗教対立を背景に、フランス国内の政治的権力闘争が複雑に絡み合った結果、起きました。

背景：ユグノーの自治と中央政府の対立

ユグノー戦争終結後、アンリ4世が発布したナントの勅令によって、ユグノーには広範な特権が与えられました。ラ・ロシェルは、その自治のもとでユグノーの拠点となり、海上勢力の中核を担っていました。しかし、中央政府にとっては、この地が抵抗の象徴となっていたのです。

1610年にアンリ4世が暗殺され、ルイ13世が即位すると、親カトリック政策が推し進められ、プロテスタントの立場は弱まりました。ロアン公アンリとその弟スービーズ公は、プロテスタントの抵抗勢力を組織し、1621年には反乱を起こしますが、国王軍によって鎮圧されます。その後、1625年にもロアン公らが再び武装蜂起しますが、国王軍にレ島を攻略されてしまいます。ルイ13世は、ユグノーの制圧を決意し、宰相リシュリュー枢機卿はユグノー鎮圧を最優先課題としました。

イギリスの介入と第一次ラ・ロシェル派遣軍

英仏間の対立は、1624年にイングランドがハプスブルク家に対抗するためフランスと同盟を試みたものの失敗したことから始まりました。1626年、リシュリュー枢機卿がスペインと秘密講和を結び、イングランド王妃ヘンリエッタ・マリアの出身であるブルボン家との関係が悪化します。フランスは、イギリスを国益を害する存在とみなし、海軍力を増強していました。

1626年6月、ウォルター・モンタギューがフランスに渡り、反乱を企てていた貴族たちと接触します。計画では、イギリス艦隊が反乱を支援し、ロアン公とスービーズ公が呼応して反乱を起こすことになっていました。

1627年6月、イギリス王チャールズ1世は、寵臣バッキンガム公ジョージ・ヴィリアーズ率いる艦隊をラ・ロシェルに派遣し、反乱軍を支援しようとしました。バッキンガム公は、レ島に上陸しラ・ロシェルへの連絡路を確保しようとしましたが、ラ・ロシェルは当初、国王との戦争を恐れてイギリスとの同盟を拒否します。しかし、9月に国王軍との衝突が起きたため、同盟を表明しました。レ島では、バッキンガム公は中心都市サン・マルタン・ド・レを包囲しましたが、町の抵抗は激しく、イギリス軍は資金と支援を失い、疫病も蔓延。結局、バッキンガム公は撤退を余儀なくされました。

包囲戦：国王軍の圧倒的な力

1627年8月、国王軍はアングレーム公シャルル率いる兵7000、騎兵600、砲24門の兵力でラ・ロシェルの包囲を開始しました。リシュリュー枢機卿が総司令官となり、国王軍はボングレーヌとルイ砦を増強。9月10日、ラ・ロシェルからルイ砦への砲撃を皮切りに、第三次ユグノーの反乱が勃発します。包囲軍は、12kmにわたる包囲線を構築し、町を孤立させました。さらに、海からの補給を断つため、長さ1400mの堤防を建設し、ラ・ロシェルを完全に封鎖しました。

ロアン公は南フランスでの反乱を試みるも失敗。1628年2月までは、数隻の船が建設中の堤防を突破できましたが、3月以降は不可能となります。町は完全に封鎖され、イギリス艦隊が最後の望みとなります。

オランダとスペインの支援

カトリック国であるフランスは、プロテスタントのラ・ロシェルを制圧するために、同じプロテスタントのアムステルダム市から船舶を借り受けました。この事実を巡ってアムステルダム市議会で論争が起きましたが、最終的にはオランダ船はフランス兵を輸送しました。フランスはハプスブルク家と敵対するオランダの同盟国でありました。

また、スペインはラ・ロシェル包囲戦を好機と捉え、共通の敵であるイギリス、ユグノー、そしてオランダに対抗するためにフランスとの同盟を求めました。リシュリューはスペインの援助を受け入れ、スペイン艦隊はラ・ロシェル沖に到着しましたが、結局ラ・ロシェルとの交戦はありませんでした。

ラ・ロシェルの陥落と戦後

イギリスは、ラ・ロシェルを救援するため、2度に渡って艦隊を派遣しましたが、いずれも失敗に終わります。4月に出発したデンビー伯爵率いる艦隊は交戦せずに帰還。8月に出発したリンジー伯爵率いる艦隊は、堤防の突破を試みましたが失敗に終わります。絶望したラ・ロシェルは、10月28日に降伏しました。

ジャン・ギトン市長の下で14ヶ月間抵抗を続けたラ・ロシェルの市民は、包囲戦と飢餓、疫病によって、人口を27,000人から5,000人まで減らしました。降伏は無条件であり、アレス和議によって、ユグノーは地域的、政治的、軍事的特権を失いますが、ナントの勅令によって認められた信仰の自由は残されました。しかし、彼らは国王の慈悲の下に残されただけであり、後のルイ14世によるナントの勅令の廃止によって、弾圧を受けることになります。

ラ・ロシェル包囲戦の結果は、国王がフランス全土を掌握し、地方の抵抗を許さない強力な中央政府を確立するきっかけとなりました。また、この戦いは絶対王政確立の顕在化であり、現代に続くフランスの国体にも大きな影響を与えました。

フランスの哲学者ルネ・デカルトが、1627年に包囲中の戦場を訪れたことが知られています。また、この包囲戦はジャック・カロをはじめとする多くの画家によって描かれ、アレクサンドル・デュマ・ペールの『三銃士』の歴史的背景にもなっています。

ラ・ロシェル包囲戦は、17世紀フランスの歴史において、非常に重要な転換点であり、その影響は現代にまで及んでいます。

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