ラーニング・コモンズ
ラーニング・コモンズ（Learning Commons）とは、主に大学図書館内に設置される、学生の学習活動を多角的に支援するための空間および施設です。情報通信技術が整備され、個人での自習に加え、グループでの協同学習に適した家具や設備が用意されています。学習上の疑問や課題について相談できるスタッフが配置されている場合が多く、開放的で柔軟な利用が可能な環境が特徴です。図書館外に設置されたり、軽飲食が可能なエリアが設けられたりする例も見られます。
この概念は、図書館の役割の変化に伴い発展してきました。歴史を遡ると、かつては学部学生向けに図書資料と人的サービスを提供する「学習図書館」が存在しましたが、財政的な問題などから衰退しました。しかし、学習支援空間へのニーズは消えず、情報通信技術の急速な発展を背景に1990年代に「インフォメーション・コモンズ」が登場します。これは、インターネットへのアクセス環境や基本的なITツールを備え、情報検索を中心とした学習を支援する図書館内の空間でした。当時の高等教育機関は、厳しい財政状況の中で学生の多様化に対応しつつ、学習成果の質を保証することが求められており、図書館の学習支援機能が改めて注目されていました。
学習に関する理論も、知識の伝達から、情報を自ら解釈し知識を創造する構成主義的な学習モデルへと転換が進みます。これに伴い、共同で学び合い、新たな知識を生み出すための空間が図書館にも求められるようになり、インフォメーション・コモンズはより学習支援に特化した形で進化し、ラーニング・コモンズが誕生しました。
図書館の変化を捉える枠組みとして、ドナルド・ビーグルは、インフォメーション・コモンズからラーニング・コモンズへの発展段階を四象限で示しました。第一象限は印刷物を含む多様な情報資源の統合、第二象限は大学全体の優先課題に合わせたサービス提供（IT環境整備など）で、これらがインフォメーション・コモンズの領域とされます。第三象限では、ライティングセンターや教員支援組織など、図書館以外の部署との協働が始まり、サービスの範囲と深さが図書館の枠を超え始めます。第四象限は大学全体の戦略や教育改革と連携する段階です。この枠組みにおいて、図書館の範囲内に留まるインフォメーション・コモンズと、他部署との協働を含むラーニング・コモンズの境界は、第二象限と第三象限の間に位置づけられています。
ラーニング・コモンズは、1990年代後半の登場以降、常に変化し続けています。ブログやソーシャルネットワーキングなどウェブ2.0技術の普及は、情報交換や入手方法に大きな変化をもたらし、ラーニング・コモンズもこれらの技術を取り込みながら、新しい時代の学生のニーズに応えようとしています。多くの大学図書館が冊子体資料を移動・削減することでスペースを確保し、その立地の良さを活かしてラーニング・コモンズを設置・拡充しています。また、ラーニング・コモンズの運営は図書館単独に留まらず、学部や研究関連部署と連携し、学習戦略や具体的な学習成果と結びつく協働プロセスの中で定義されるようになっています。
日本へは2006年に概念が紹介されました。当時の日本の大学教育も、知識の伝達から自主的な知識創出・問題解決へと学習理論が移行しつつあり、インターネット普及によって学生が図書館の主要な利用者層となる中で、彼らの学習行動様式に合わせた施設・設備が求められるようになっていました。こうした背景から、ラーニング・コモンズは日本の高等教育機関にも受け入れられていきました。導入初期は欧米の事例を参考に、インフォメーション・コモンズの発展形として捉えられることが多く、ビーグルの枠組みを用いて説明がなされました。
しかし、日本の大学教育には米国とは異なる点が複数あります。高い進学率に対して中退率が低いこと、学生への学習支援組織が米国ほど充実していないこと、学習支援に関する人材育成の組織的仕組みが未整備であること、そして米国型の「インフォメーション・コモンズ」が広く普及しなかったことなどです。特に、日本では情報の加工・発信をサポートする自律的な学習空間としてのインフォメーション・コモンズが不在だったため、現在「ラーニング・コモンズ」と呼ばれる空間の多くが、実質的にはインフォメーション・コモンズに近い機能に留まっているという指摘もあります。これらの違いを踏まえ、日本独自の文脈に合わせたラーニング・コモンズや学習支援のあり方を検討すべき時期に来ていると考えられています。
今後の日本におけるラーニング・コモンズの方向性としては、チュータリング中心の支援に加え、自主的な学習コミュニティの形成支援、キャリア支援組織との連携による学習と将来の接続、学習支援組織が不十分な大学においては教員との連携による機能強化、そして学習支援の専門家を含めた情報交換の場の必要性などが指摘されています。
日本国内でもラーニング・コモンズの設置は進んでおり、2011年頃には100近い機関に導入されていました。その内実は多様ですが、先駆的な事例としては、国際基督教大学のオスマー図書館（2000年開館、学習スペース中心）やお茶の水女子大学のラーニング・コモンズ（2006年完成、共同コミュニケーションスペース）があります。近年では、図書館機能を研究開発機能と連携させた千葉大学のアカデミック・リンク（2012年グッドデザイン賞受賞）や、共同学習とアカデミックスキル育成の場を組み合わせた同志社大学のラーニング・コモンズ（国内最大級の一つ）などが注目されています。大正大学のように、図書館外に設置された学習関連ツールを備えた空間も存在します。このように、日本のラーニング・コモンズは独自の発展を遂げながら普及が進んでいます。
この概念は、図書館の役割の変化に伴い発展してきました。歴史を遡ると、かつては学部学生向けに図書資料と人的サービスを提供する「学習図書館」が存在しましたが、財政的な問題などから衰退しました。しかし、学習支援空間へのニーズは消えず、情報通信技術の急速な発展を背景に1990年代に「インフォメーション・コモンズ」が登場します。これは、インターネットへのアクセス環境や基本的なITツールを備え、情報検索を中心とした学習を支援する図書館内の空間でした。当時の高等教育機関は、厳しい財政状況の中で学生の多様化に対応しつつ、学習成果の質を保証することが求められており、図書館の学習支援機能が改めて注目されていました。
学習に関する理論も、知識の伝達から、情報を自ら解釈し知識を創造する構成主義的な学習モデルへと転換が進みます。これに伴い、共同で学び合い、新たな知識を生み出すための空間が図書館にも求められるようになり、インフォメーション・コモンズはより学習支援に特化した形で進化し、ラーニング・コモンズが誕生しました。
図書館の変化を捉える枠組みとして、ドナルド・ビーグルは、インフォメーション・コモンズからラーニング・コモンズへの発展段階を四象限で示しました。第一象限は印刷物を含む多様な情報資源の統合、第二象限は大学全体の優先課題に合わせたサービス提供（IT環境整備など）で、これらがインフォメーション・コモンズの領域とされます。第三象限では、ライティングセンターや教員支援組織など、図書館以外の部署との協働が始まり、サービスの範囲と深さが図書館の枠を超え始めます。第四象限は大学全体の戦略や教育改革と連携する段階です。この枠組みにおいて、図書館の範囲内に留まるインフォメーション・コモンズと、他部署との協働を含むラーニング・コモンズの境界は、第二象限と第三象限の間に位置づけられています。
ラーニング・コモンズは、1990年代後半の登場以降、常に変化し続けています。ブログやソーシャルネットワーキングなどウェブ2.0技術の普及は、情報交換や入手方法に大きな変化をもたらし、ラーニング・コモンズもこれらの技術を取り込みながら、新しい時代の学生のニーズに応えようとしています。多くの大学図書館が冊子体資料を移動・削減することでスペースを確保し、その立地の良さを活かしてラーニング・コモンズを設置・拡充しています。また、ラーニング・コモンズの運営は図書館単独に留まらず、学部や研究関連部署と連携し、学習戦略や具体的な学習成果と結びつく協働プロセスの中で定義されるようになっています。
日本へは2006年に概念が紹介されました。当時の日本の大学教育も、知識の伝達から自主的な知識創出・問題解決へと学習理論が移行しつつあり、インターネット普及によって学生が図書館の主要な利用者層となる中で、彼らの学習行動様式に合わせた施設・設備が求められるようになっていました。こうした背景から、ラーニング・コモンズは日本の高等教育機関にも受け入れられていきました。導入初期は欧米の事例を参考に、インフォメーション・コモンズの発展形として捉えられることが多く、ビーグルの枠組みを用いて説明がなされました。
しかし、日本の大学教育には米国とは異なる点が複数あります。高い進学率に対して中退率が低いこと、学生への学習支援組織が米国ほど充実していないこと、学習支援に関する人材育成の組織的仕組みが未整備であること、そして米国型の「インフォメーション・コモンズ」が広く普及しなかったことなどです。特に、日本では情報の加工・発信をサポートする自律的な学習空間としてのインフォメーション・コモンズが不在だったため、現在「ラーニング・コモンズ」と呼ばれる空間の多くが、実質的にはインフォメーション・コモンズに近い機能に留まっているという指摘もあります。これらの違いを踏まえ、日本独自の文脈に合わせたラーニング・コモンズや学習支援のあり方を検討すべき時期に来ていると考えられています。
今後の日本におけるラーニング・コモンズの方向性としては、チュータリング中心の支援に加え、自主的な学習コミュニティの形成支援、キャリア支援組織との連携による学習と将来の接続、学習支援組織が不十分な大学においては教員との連携による機能強化、そして学習支援の専門家を含めた情報交換の場の必要性などが指摘されています。
日本国内でもラーニング・コモンズの設置は進んでおり、2011年頃には100近い機関に導入されていました。その内実は多様ですが、先駆的な事例としては、国際基督教大学のオスマー図書館（2000年開館、学習スペース中心）やお茶の水女子大学のラーニング・コモンズ（2006年完成、共同コミュニケーションスペース）があります。近年では、図書館機能を研究開発機能と連携させた千葉大学のアカデミック・リンク（2012年グッドデザイン賞受賞）や、共同学習とアカデミックスキル育成の場を組み合わせた同志社大学のラーニング・コモンズ（国内最大級の一つ）などが注目されています。大正大学のように、図書館外に設置された学習関連ツールを備えた空間も存在します。このように、日本のラーニング・コモンズは独自の発展を遂げながら普及が進んでいます。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。