ラーンキ・デジェー

1951年9月8日、ハンガリーの首都ブダペストに生を受けたラーンキ・デジェー（Ránki Dezső）は、現代クラシック音楽界を代表する優れたピアニストの一人です。母国ハンガリーはもちろんのこと、国際的な舞台でもその名を広く知られており、特に日本ではコチシュ・ゾルターン、シフ・アンドラーシュと共に「ハンガリーの三羽烏」あるいは「ハンガリーの三天王」と呼ばれ、親しまれています。

音楽教育は幼少期から開始され、8歳という早い時期に、著名な教育機関であるリスト・フェレンツ音楽大学に入学しました。ピアニストとしての基礎と高度な技術は、同大学でカドシャ・パールに師事することによって培われました。

学生時代からその才能は際立っており、若手音楽家の登竜門として評価されるツヴィッカウ・シューマン国際コンクールでの優勝は、彼のその後の国際的な演奏活動の重要な契機となりました。この栄誉を機に、ラーンキは世界各地での演奏活動を本格的に展開。欧米各国の主要都市はもとより、北欧諸国、かつてのソビエト連邦、そして遠く離れた日本に至るまで、その優れた演奏を披露する機会を得ました。

1970年代の日本における彼の人気は非常に高く、特有の現象として語られます。当時の音楽大学に学ぶ若い女性たちの間では、クラシックピアニストとしては異例なほど熱狂的に支持され、まるでアイドルかのような人気を博しました。彼の瑞々しい感性と端正な演奏は、多くの聴衆の心に深く刻まれたのです。

ラーンキの演奏スタイルは、そのレパートリーの広さと深い音楽性によって特徴づけられます。特に、ハンガリー音楽の偉大な作曲家であるフランツ・リストやバルトーク・ベーラ作品の解釈においては、その民族的な背景に根ざした洞察と情熱的な表現が高く評価されています。しかし、彼の才能は特定のレパートリーに限定されるものではありません。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、フレデリック・ショパン、モーリス・ラヴェルといった、西欧音楽史における重要な作曲家たちの作品においても、その洗練された技巧と情感豊かな表現力を遺憾なく発揮しています。

ラーンキの音楽活動は、家族との深い絆とも結びついています。彼と同じく優れた才能を持つピアニストである妻、エディット・クルコンとは、長年にわたり音楽上のパートナーとして、2台ピアノや連弾の分野で数多くの共演を行ってきました。夫婦による息の合った演奏は多くの録音としても残されており、高い評価を得ています。さらに、息子であるラーンキ・フュロップもまたピアニストとして活動しており、時には親子3人での共演が実現するなど、文字通りの音楽一家としても注目されています。

長年にわたる彼の輝かしいキャリアは、数多くの権威ある賞によって称えられています。ツヴィッカウ・シューマン国際コンクールでの優勝を皮切りに、ハンガリー国内最高峰の文化賞であるコッシュート賞を1978年と2008年の二度にわたり受賞しています。その他の主な受賞歴には以下のものがあります。

リスト・フェレンツ賞 (1973年)
優秀芸術家（Érdemes művész）(1984年)
バルトーク＝パーストリ賞 (1988年)
特級芸術家（Kiváló művész）(1990年)
プリマ・プリミッシマ賞 (2005年)
ハンガリー共和国功労勲章中十字星付章 (2006年)
ハンガリー芸術賞 (2007年)
ブダペスト名誉市民 (2014年)

ラーンキ・デジェーは、その盤石なテクニック、豊かな音楽的表現力、そして幅広いレパートリーによって、世界中のクラシック音楽ファンを魅了し続けています。ハンガリーの音楽遺産を深く理解しつつ、多様な時代の作品に新たな光を当てる彼の存在は、20世紀後半から現在に至るピアノ界において、疑いなく重要な位置を占めています。

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