リシルド・ド・エノー

リシルド・ド・エノー（Richilde de Hainaut, 1018年頃 - 1086年3月15日）は、中世ヨーロッパにおいて重要な役割を果たした女性です。彼女はエノー女伯として自身の領地を統治し、フランドル伯妃としてその影響力を広げ、さらにはフランドル伯領の摂政として政治を動かしました。

生涯

リシルドは、レニエ家のレニエ・ド・アスノンとアーデルハイト・フォン・エギスハイムの間に生まれたと考えられています。1040年頃にエノー伯エルマンと結婚し、1049年頃には父レニエからヴァランシエンヌ辺境伯領を継承しました。この時、父レニエは神聖ローマ皇帝ハインリヒ3世に反乱を起こしたフランドル伯ボードゥアン5世に代わり、ヴァランシエンヌ辺境伯に任ぜられていました。夫エルマンの死後、リシルドはエノー伯領の女子相続人となり、ヴァラシエンヌ女伯とエノー女伯の両方の地位を兼ねることになりました。

エノー伯領の相続人となったリシルドは、結婚を通じて領地を確保しようとする周囲の勢力から注目されました。特に、フランドル伯ボードゥアン5世は、軍事的な圧力を背景に、リシルドを自らの長男ボードゥアン6世と結婚させました。この結婚は、エノーが神聖ローマ帝国領であったにも関わらず、皇帝ハインリヒ3世には知らされていなかったため、皇帝とボードゥアン5世の間で争いへと発展し、最終的にはボードゥアン5世が敗北しました。

ボードゥアン6世は妻の権利を通じてエノー伯領を支配しましたが、義父ボードゥアン5世はリシルドと前夫エルマンの間に生まれた子供たちを後継者から除外しました。これにより、エノーとヴァラシエンヌはフランドル伯家が継承することとなりました。1067年にボードゥアン6世がフランドル伯を継承すると、エノー、ヴァラシエンヌ、フランドルは統合され、ボードゥアン6世がその死まで統治しました。

ボードゥアン6世は遺言で、長男のアルヌール3世にフランドル伯領を、次男のボードゥアン2世にエノー伯領をそれぞれ継承させると定めました。さらに、どちらかの息子が先に亡くなった場合は、残された方が先に亡くなった方の領地も継承するようにと指示しました。また、ボードゥアン6世は、弟のロベール1世から忠誠の誓いと、甥たちを守るという約束を取り付けました。

ボードゥアン6世の死後、アルヌール3世がフランドル伯となりますが、若年であったため、リシルドがフランドル伯領の摂政となりました。しかし、ロベール1世は兄への誓いを破り、アルヌール3世からフランドル伯領を奪おうとしました。リシルドはヘレフォード伯ウィリアム・フォッツオズボーンに助けを求め、フランス王フィリップ1世の支援も得ましたが、カッセルの戦いで敗北しました。この戦いで、ウィリアム・フォッツオズボーンとアルヌール3世が戦死し、リシルド自身も捕らえられた後、釈放されました。その後、フランス王フィリップ1世はロベール1世をフランドル伯として認めました。

リシルドは次男ボードゥアン2世と共にエノーを保持しましたが、フランドルを奪還しようとする試みは成功しませんでした。彼女はボーモンに城を建設し、教会を聖ヴェナンティウスに捧げました。また、息子ボードゥアン2世と共にモンスにサン＝ドニ修道院を創建しました。摂政を退いた後、リシルドはメシーヌ修道院に隠棲しました。彼女は1076年に息子ボードゥアン2世によって退位させられたと考えられています。リシルドは1086年3月15日に亡くなりました。

子女

エノー伯エルマンとの間には2人の子供をもうけました。

ロジェ - シャロン＝アン＝シャンパーニュ司教になったが、障害があったとされる。
娘（名前不明）

フランドル伯ボードゥアン6世との間には2人の子供をもうけました。

アルヌール3世 - フランドル伯・エノー伯となったが、若くして亡くなった。
ボードゥアン2世 - エノー伯となった。

1071年に、初代ヘレフォード伯ウィリアム・フィッツオズボーンと3度目の結婚をしました。

リシルド・ド・エノーは、その生涯を通じて、結婚、相続、権力闘争の中で、自らの地位と領土を守り抜いた女性でした。彼女の行動は、中世ヨーロッパにおける女性の役割や政治情勢を理解する上で、重要な視点を提供してくれます。

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