リスト・ユトレヒト

リスト・ユトレヒト（Liszt Utrecht）は、オランダのユトレヒトで催される、フランツ・リストの作品演奏を核とする国際的なピアノコンクールです。4年ごとに開催されるこのコンクールは、以前は「リスト国際ピアノコンクール」として広く認識されていましたが、公式には「リスト・ユトレヒト 20XX」という名称へと改められています。

名称変更の背景

近年、国際音楽コンクールの名称に関して、画一的な「〇〇国際ピアノコンクール」という形式に対する見直しが進んでいます。これは、多様性を尊重する社会的な流れを反映したものであり、テキサス州の「The Gurwitz」や、フランスのポントワーズで開催される「ピアノ・キャンパス」のように、より固有な名称を採用する事例が増えています。リスト・ユトレヒトもこのような世界的な動向の中で名称変更を行ったコンクールの一つです。加えて、ドイツのワイマールにも同名の「リスト国際ピアノコンクール」が存在するため、ユトレヒトでのコンクールであることを明確にする目的も含まれています。しかし、長年慣れ親しまれた旧称での認識が関係者の間に残っている現状もあります。

コンクールの形式と特徴

リスト・ユトレヒトは、時代の変化に合わせてその形式を進化させてきました。かつてオンライン審査がなかった頃は、参加者が会場で直接演奏を披露することで選考が行われていました。現在では、オンラインによる予備審査が導入されており、これに合格した約20名がユトレヒトでの本選ラウンドに進みます。本選は予選、セミファイナル、ファイナルという段階を経て行われ、最終的に3名のファイナリストが選出されます。セミファイナルに進出できるのは8名です。

このコンクールの最大の特徴は、演奏課題曲にフランツ・リストの作品が中心であることです。しかし、近年ではこの傾向に変化が見られます。当初はリスト自身のオリジナル作品のみで競うことを主眼としていたようですが、現在はリストが他作曲家の作品を編曲したものも重要な課題に含まれています。具体的には、2022年度大会ではリスト編曲によるシューベルト作品が、そして2026年度大会ではリスト編曲によるウェーバー作品が必修課題となっています。オンライン予選における自由曲も、リストのオリジナル作品か編曲作品のいずれかに限られます。

本選の課題曲、特に予選、セミファイナル、ファイナルで演奏されるリスト作品は、審査委員長によって非常に慎重に選定されます。この選曲には、演奏される機会が少ないリスト作品も含まれることが多く、参加者にはリストの幅広い作品群に対する深い理解と探求が求められます。

近年は複数のピアノメーカーからのスポンサーシップを得ており、コンクールは充実した環境で開催されています。また、コンクール期間中にピアノアカデミーを併催するなど、教育的な側面も重視されています。2026年度の大会では、参加者のコミュニケーション能力を評価したり、より日常的な場所での演奏経験を積ませたりする目的で、地方のショッピングモールに置かれたピアノでの演奏といったユニークな課題が設定される予定です。

ファイナル進出者は、コンクール期間終了後も、フランツ・リスト作品のプロモーション活動のため、比較的長期間にわたりオランダに滞在することが求められます。これは、ベルギーのエリザベート王妃国際音楽コンクールなど、他の著名な国際コンクールにも見られる形式です。

審査形式にも変化がありました。2026年度大会では、セミファイナルの参加者全員の演奏が終わった時点でファイナリストがまとめて発表される方式が採用されていますが、以前は予選、第二次予選といった段階的な選考が行われていました。

参加者の傾向

リスト・ユトレヒトは、フランツ・リストの広範な作品世界への深い理解と優れた演奏技能が問われるコンクールです。しかし、入賞したピアニストが必ずしもその後のキャリアでリスト作品の普及活動を専門的に行うわけではありません。参加者の出身地域に関しては、特定の地域（例えばアジア圏やロシア勢）の出場者が有利あるいは不利になるという偏りは見られないとされており、公正な審査が行われていることが示唆されます。

リスト・ユトレヒトは、その独自の課題曲設定や形式を通じて、世界の若手ピアニストたちにフランツ・リストという偉大な作曲家と深く向き合い、その多面的な芸術を世界に発信する重要な機会を提供し続けています。

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