リセット

リセット：初期状態への回帰

「リセット」とは、機器やソフトウェアの状態を初期状態に戻す操作を指します。コンピュータゲームにおけるゲーム再開や、電子機器における初期化など、様々な文脈で使用される汎用性の高い用語です。本稿では、電子回路とコンピュータゲームという異なる文脈におけるリセットの仕組みや歴史、派生語について詳細に解説します。

電子回路におけるリセット

電子回路は、入力信号に応じて出力信号を生成する装置と捉えることができます。過去の入力状態を考慮して出力を決定する場合、回路内部に状態を保持する仕組みが必要です。デジタル回路では、この状態保持はレジスタという回路によって行われます。

デジタル電子回路は、大まかに言うと、外部入力信号と内部状態レジスタの出力を組み合わせ、次の内部状態（レジスタの状態変化）を作り出すシステムです。リセットはこの内部状態レジスタを強制的に初期状態に戻す操作です。レジスタの基本要素であるフリップフロップは1bitの情報を保持しますが、リセットはこれを0または1の特定の状態に強制的に変更します。

回路が複雑化し、要素部品が増えると、全内部状態を確実に同時にリセットすることが回路設計上の重要な課題となります。特に電源投入直後の安定動作には工夫が必要です。電源電圧が規定値に達するまでには時間差が生じ、部品によってリセット動作のタイミングがずれる可能性があります。ある部品が早くリセットを終えて次の状態に移行し、入力信号を取り込み始めたとしても、他の部品のリセットが完了していないと、全体として不正確な信号処理を行い、誤動作を引き起こす可能性があります。

CPUなど高度な電子回路は、クロック信号の変化に合わせて内部状態を一斉に変更する同期回路として設計されます。リセット信号もクロック信号のタイミングを考慮して制御する必要があり、データシートにはリセット信号のON時間に関する指示が記載されています。

確実にリセットを行うため、リセット信号は他の信号よりも早くONになり、他の部品のリセット完了後にOFFになるように設計されます。通常は抵抗とコンデンサで実現しますが、複雑な回路ではリセット専用ICを使用する場合もあります。

高速動作の回路では、遅い部品のリセット完了を待つのが非効率な場合があります。この場合、影響を受ける部分と受けない部分を分離し、高速リセットと低速リセットの2種類の信号を使い分ける設計が用いられます。

内部状態を特定の値に設定してから処理を開始することを「プリセット」と呼びます。フリップフロップでは、0に設定することをリセット、1に設定することをプリセットと呼ぶこともあります。

コンピュータゲームにおけるリセット

ゲーム機のリセットボタンは、CPUのレジスタをゼロに書き換え、プログラムカウンタをゼロ番地に設定してゲームを強制的に再起動します。CPUと直結したボタンではCPUレジスタが直接書き換えられますが、直結していないボタンでは、ワイヤーロジックを用いたシンプルな回路でCPUのリセットを行います。そのため、OSやアプリケーションがフリーズしていてもリセットが可能です。

CPUに直結していないリセット機能では、ゲームソフトが強制終了します。セーブ機能のあるゲームでは、最後にセーブした時点の状態に戻ります。

日本では、1976年登場のAY-3-8500でリセットボタンがゲーム機に一般化し、当初は得点リセット機能として使用されました。その後、モード切り替えやスタートボタンの役割も担うようになりました。ファミコンでは誤動作解消機能として使用されましたが、ハイスコアの保存、セーブ機能の普及により、ゲーム進行状況をリセットする機能として定着しました。フロッピーディスクゲームの普及とともに、自動セーブ機能によるリセット封じもみられます。これは、リセットが容易にゲーム状況を操作できる手段だったため、開発者とプレイヤー間のせめぎ合いの結果と言えるでしょう。

近年では、「リセットさん」などのメタフィクションネタとして使用されたり、裏技として利用されるなど、ゲーム文化に深く根付いています。

ソフトリセットは、アメリカのアタリゲーム機で存在していましたが、日本ではPCエンジンがコントローラ操作によるソフトリセットを標準機能として採用し、利便性を向上させました。2000年代以降は、ハード性能の向上とトラブル回避のため、CPUリセット機能は減少傾向にあります。

派生語

「リセット」は、比喩的に、過去の出来事をなかったことにしたり、やり直したりすることを意味する言葉としても使用されています。

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