リチャード・サウスウェル卿の肖像

[ハンス・ホルバイン]による「リチャード・サウスウェル卿の肖像」：威厳と知性を湛えたルネサンスの傑作

1536年から1537年頃、[ドイツ]]・ルネサンス期の巨匠ハンス・ホルバイン]によって制作された「リチャード・サウスウェル卿の肖像」は、現在、イタリア・[[フィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されている、美術史上に名高い絵画です。この作品は、単なる肖像画を超え、16世紀ヨーロッパの政治、文化、そして芸術が交錯する時代を象徴する存在と言えるでしょう。

リチャード・サウスウェル卿：ヘンリー8世の信頼厚い評議員

肖像画のモデルであるリチャード・サウスウェル卿は、イギリス王ヘンリー8世の評議員として重要な役割を担っていました。特に、ヘンリー8世による修道院解散政策において、重要な役割を果たしたとされています。ホルバインは、1536年に宮廷画家となり、サウスウェル卿をこの重要な時期に肖像画として描き残しました。絵画に記された碑文「X° IVLII ANNO H[ENRICI] VIII XXVIII° / ETATIS SUAE ANNO XXXIII」は、この事実を裏付ける重要な史料となっています。これは、ヘンリー8世の治世28年目、つまり1536年7月10日、サウスウェル卿33歳の時に描かれたことを示しています。

ホルバインの卓越した技：細密な描写と心理描写

この肖像画は、ホルバインの成熟期の作品として知られています。彼の卓越した技量は、サウスウェル卿の容姿だけでなく、その内面へと迫るような深みのある心理描写にも表れています。細密な筆致で表現された衣装やアクセサリーは、サウスウェル卿の高い社会的地位を示唆し、同時に、彼の知性と威厳を際立たせています。現在、ウィンザー城の英国王室コレクションには、この絵画のための準備素描が所蔵されており、「騎士サウスウェル」という碑文が記されているとのことです。準備段階からの緻密な制作工程をうかがい知ることができます。

波乱に満ちた来歴：メディチ家からウフィツィ美術館へ

この絵画の来歴は、美術史においても非常に興味深いものです。1620年、トスカーナ大公コジモ2世は、アランデル公トーマス・ハワードからこの絵画を求め、メディチ家のコレクションに加えました。コレクションの空白を埋めるための積極的な収集活動の一環であったと推測されます。絵画は1621年4月、コジモ2世の死後、フィレンツェに到着したという記録が残されています。絵画にはかつて黒檀の額縁があったと伝えられていますが、現在残っているのは、メディチ家、アランデル家、サウスウェル家の紋章と画家の名前が記された銀の装飾的なメダリオンのみです。これらのメダリオンは、17世紀にトスカーナ大公が絵画を購入した時期に遡ると考えられています。さらに、ナポレオンによるヨーロッパ侵攻の際にパリに持ち込まれた、この作品の複製画がルーヴル美術館に所蔵されているという事実も、この絵画の歴史における重要な出来事です。

美術史研究における重要性

「リチャード・サウスウェル卿の肖像」は、単なる肖像画としてだけでなく、16世紀ヨーロッパの政治状況、宗教改革、そして芸術文化の交流を理解する上で貴重な資料となっています。準備素描の存在、メディチ家やアランデル家といった名家との関わり、そして複製画の存在など、多角的な視点から研究を進めることができる点が、この絵画の重要性をより一層高めています。ウフィツィ美術館に所蔵されているこの傑作は、今後も美術史研究者や美術愛好家にとって、尽きることのない魅力と知的な刺激を与え続けることでしょう。

もう一度検索