リトルネロ形式

リトルネッロ形式とは

リトルネッロ形式（伊: Ritornèllo）は、西洋音楽における楽曲形式の一つで、特にバロック時代の協奏曲において頻繁に見られました。

概要

リトルネッロ形式は、リトルネッロと呼ばれる主題を楽曲中に何度も挟み込みながら進行していくのが特徴です。この点でロンド形式と類似していますが、重要な違いがあります。ロンド形式では、ロンド主題が常に同じ調（主調）で演奏されるのに対し、リトルネッロ形式では、楽曲の最初と最後を除き、リトルネッロ主題は主調以外の調で演奏されることが一般的です。

また、協奏曲におけるリトルネッロ形式では、リトルネッロをオーケストラ全体で演奏し、リトルネッロに挟まれた部分をソロ楽器またはソロ楽器群が演奏するという構成がよく見られます。

この形式は、アントニオ・ヴィヴァルディの協奏曲「春」に典型的に見られ、彼の初期の作品集である『調和の霊感』作品3においても多用されています。ただし、ヴィヴァルディがリトルネッロ形式の創始者というわけではなく、それ以前にもトレッリやアルビカストロといった作曲家がこの形式を用いています。

初期のリトルネッロは比較的短いものでしたが、発展していくにつれて、主調に2種類、関係調に1種類、遠隔調に1種類という、合計4種類の調を用いるものが現れました。

バロック時代以降の展開

バロック時代以降も、ベートーヴェンの時代に至るまで、協奏曲の第一楽章においてリトルネッロ形式が使用され続けました。古典派音楽の協奏曲の第一楽章は、提示部・展開部・再現部という3つの部分から構成されるソナタ形式として解釈されることが多いですが、実際には通常のソナタ形式とは異なっています。

古典派の協奏曲では、「管弦楽の全奏による提示部の1度目の演奏」、「提示部（2度目）の終わりの全奏」、「楽章の終わり（カデンツァの後）の全奏」がリトルネッロとして機能し、その間にソロ楽器を中心とした部分が挟まれるという形式が見られます。

協奏曲以外の応用

リトルネッロ形式は、協奏曲を元にした音楽にも応用されています。たとえば、ヨハン・セバスティアン・バッハのカンタータの多くはリトルネッロ形式で構成されており、合唱が独奏楽器の役割を果たしています。

成立史

「リトルネッロ」という言葉は、イタリア語で「復帰」を意味する「ritorno」に指小辞をつけたもので、「繰り返し」という意味を持っています。音楽用語としては、3つの詩行からなる民謡において、第1行と第3行が韻を踏むものを指すのが最も古い用法です。また、14世紀のマドリガーレの詩の最後の2行もリトルネッロと呼ばれていました。

17世紀に入ると、声楽曲、特にアリアの前奏・間奏・後奏の器楽部分を指すようになりました。ただし、この時期のリトルネッロは毎回同じではなく、転調するなど何らかの変形を伴うようになっていきました。そして18世紀初頭に、この形式の声楽部分をソロ楽器に置き換えることによって、協奏曲におけるリトルネッロ形式が確立されたのです。

リトルネッロ形式は、バロック音楽の重要な要素であり、その後の音楽史にも大きな影響を与えました。

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