リトル・ファジー

リトル・ファジー（LITTLE FUZZY）

H・ビーム・パイパーが著したこのSF小説は、人類が超光速航行技術を獲得し、新たな星々へと入植を進める時代を背景としています。特に、物語の舞台となる植民星ツァラトゥストラは、往年の西部開拓時代を彷彿とさせる雰囲気を持ちます。本作の核心は、「知性」とは何か、そしてそれが人間とそうでない生物を区別する唯一絶対の基準たりうるのか、という深遠な問いにあります。

あらすじ

物語は、ツァラトゥストラ星で細々と暮らす老齢の鉱石採集者、ジャック・ホロウェイが、ある日、自宅に迷い込んできた奇妙な生物と遭遇するところから幕を開けます。その生き物は、愛らしい外見からジャックに「リトル・ファジー」と名付けられ、共に生活するようになります。しかし、共に過ごすうちに、ジャックはファジーが単なる動物ではなく、明らかに知性を備えていることに気づきます。彼らの様子は、開拓が始まって四半世紀が経過したこの星で知られる、いかなる生命体とも異なっていたのです。

この驚くべき発見を知人の博物学者たちに伝えたことで、事態は急変します。ツァラトゥストラ星の全ての権益を独占する巨大企業である特許会社は、この情報に強い危機感を抱きました。植民地法では、もし入植先に原住の知的生命体が存在することが認められた場合、その星における特許会社の独占的な権限は剥奪されると定められていたからです。自らの莫大な既得権益を守るため、会社はファジーが知性を持たない動物であると強弁し、さらには彼らの存在そのものを葬り去ろうと暗躍を開始します。かくして、ファジーを守ろうとするジャック老人と彼の協力者たち、そして星の支配を維持しようとする特許会社の間で、激しい対立が巻き起こります。

主な登場人物

ジャック・ホロウェイ: 物語の主人公。ツァラトゥストラ星で太陽石などの鉱物を採集して暮らす70代の老人。数々の星を渡り歩いた経験を持ち、射撃の腕も立つ。ファジーを発見し、彼らの権利のために特許会社と対峙する。
ファジーたち: ジャックによって「リトル・ファジー」と名付けられた種族。身長約30センチの哺乳類で、全身がふわふわの毛皮に覆われています。道具を使用するなど明らかな知性を示します。リトル・ファジーの家族（ママ・ファジー、赤んぼう、ミツシー、マイク、ココ）や、後から合流するシンデレラとゴルディロックス姉妹などが登場します。
ベネット・レインズフォード: ジャックの友人である博物学者。ファジーの知性にいち早く気づき、「太陽系外の九番目の知的生物」である可能性を提唱し、彼らの調査に協力します。
ゲルト・ヴァン・リーベーク: 特許会社の科学センターに所属する博物学者。会社のファジーに対する姿勢に疑問を感じ、ジャック側に協力するようになります。
ガス・ブラナード: ジャックの友人の弁護士。ファジーの権利を法的に擁護するために尽力します。
レナード・ケロッグ: ツァラトゥストラ特許会社の科学センター部長。傲慢な人物で、ファジーを実験動物としか見なさず、部下やジャックたちの反感を買います。
* アレックス・ネイピア: 宇宙海軍提督。特許会社の不審な動きを察知し、ファジーの発見を機に行動を開始します。

テーマと背景

本作の中心的なテーマは、「知性」の定義です。道具を使うこと、社会的な繋がりを持つこと、感情を示すことなど、ファジーが示す様々な行動を通して、人間が自らを特別視する根拠としての知性について深く掘り下げます。また、物語の背景には、企業による星の支配と、それを規定する植民地法の存在があります。特許会社が自社の利益のために知的生命体の存在を否定し、抹殺すら企てる構図は、開拓と文明化の名のもとに行われる搾取や差別、そして法と権力のあり方を鋭く批判しています。

日本語訳と続編

日本では、酒匂真理子氏による翻訳版が1984年に創元推理文庫より出版されています。原著にはH・ビーム・パイパー自身による続編が2編、他の作家による続編が2編存在しますが、これらは2023年現在、日本語には翻訳されていません。

この小説は、魅力的なキャラクターとスリリングな対決に加え、普遍的なテーマへの問いかけを通じて、読者に深い感銘を与える作品となっています。

もう一度検索