リド (キャバレー)

パリを代表するナイトスポットとして知られたリド（仏: Le Lido）は、華やかなディナーショーで長年にわたり世界中の人々を魅了してきました。フランスの首都パリ8区、シャンゼリゼ通り116番地にその最後の姿がありましたが、2022年5月にキャバレーとしての営業を終えることが発表され、その歴史に幕を下ろしました。

リドの起源は、第二次世界大戦前のシャンゼリゼ通り78番地に遡ります。当時のリドは、特権階級向けの娯楽施設として、地下に豪華なプールを備えていました。「パリ・プラージュ（パリの砂浜）」と呼ばれ、ベル・エポックの隆盛期には、その華やかな装飾で知られました。特に、ヴェネチア近郊の有名なリド島にインスピレーションを得た内装が特徴的でした。しかし、その後のブームの終焉とともに経営は悪化し、1933年には一度破産に至ります。

転機が訪れたのは1936年。新たな経営者レオン・ヴォテッラ氏のもとで大規模な転換が図られ、プールはディナーショーが楽しめる劇場へと姿を変えました。この大胆な試みが、後のリドの礎となります。第二次世界大戦中のドイツ占領下においても、リドは特別な社交の場として機能し、1941年にはスペイン大使らが著名人を招待する場として利用されました。

戦後の1946年、イタリア出身のクレリコ兄弟、ジョセフとルイがリドを買い取ります。彼らは劇場をさらに大幅に改修し、同年6月20日には「Sans rimes ni raison（意味もなく）」と題した新しいレビューで再出発を果たしました。クレリコ兄弟は、興行主ピエール・ルイ・ゲラン、芸術監督ルネ・フライデー、そして伝説のダンサー集団を率いる「ミス・ブルーベル」ことマーガレット・ケリーらの協力を得て、食事とショーが融合した、世界的に影響力を持つディナーショーのスタイルを確立しました。この成功は海を越え、1955年にはラスベガスのスターダストホテルでの長期公演を実現し、これは1992年まで続くことになります。

リドの成長に伴い、より大規模な施設が必要となったため、1977年にはジャン・ロバート・ヴォードレ監督のもと、シャンゼリゼ通り116番地へと移転します。新しい建物は6000平方メートルを超える広さを持ち、ノルマンディー地方の建築様式を取り入れたものでした。特に注目されたのは、イタリアの建築家ジョルジオ・ヴェッキアとフランコ・ボルトキニが設計した1150席のパノラマホールです。このホールは柱がなく、どの席からもステージが見やすい構造になっていました。さらに画期的なシステムとして、ディナー時には1階中央の300席が80cm下降し、ショーの視界を妨げない工夫が施されました。

リドのステージには、シャーリー・マクレーン、ローレル&ハーディ、エルトン・ジョンといった国際的なスターたちが次々と登場しました。また、キャバレーという枠を超え、1984年にはイタリアの高級車メーカーであるフェラーリが、当時のフラッグシップモデル、テスタロッサの記者発表会をここで行うなど、様々なイベントに利用されました。1946年の再開以降、リドでは合計26もの新作レビューが創作され、常に革新的なショーを提供し続けました。2015年春には、最新レビュー「Paris Merveilles（素晴らしいパリ）」とともに待望のリニューアルオープンを飾り、再び輝きを放ちました。

リドのショーを彩る上で欠かせない存在だったのが、「ブルーベル・ガールズ」と呼ばれるダンサーたちです。このグループは1932年にマーガレット・ケリー・レボヴィッチによって設立されました。彼女の瞳の色がその名の由来とされています。1948年にリドの専属となり、その名を世界に知らしめました。ブルーベル・ガールズになるための条件は厳しく、全員が古典舞踊の訓練を受けていることに加え、身長175cm以上という体格的な基準も満たす必要がありました。彼女たちは「世界で最も美しく才能に富んだバーレスクダンサー」と称され、リドの華麗なショーに不可欠な存在でした。

しかし、長年の赤字経営に加え、2020年からの新型コロナウイルスの流行による長期閉鎖が経営に追い打ちをかけます。2021年12月、フランスのホテルグループ「アコー」がリドを買収。そして2022年5月、キャバレーとしての形態を終業し、今後は音楽を中心とした劇場として再出発することが報じられました。ディナーショーの殿堂として世界に名を馳せたリドは、一つの時代を終え、新たな姿へと生まれ変わることになったのです。

リドは文化的な側面でも影響を残しており、ジャン＝リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』や、ジャン＝ピエール・メルヴィル監督の『サムライ』など、数々の有名映画の舞台としても登場しています。

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