リヌス (ローマ教皇)

リヌス（Linus）は、カトリック教会において使徒ペトロに続く第2代のローマ司教、すなわち教皇として伝統的に位置づけられている人物です。その生没年は明確ではありませんが、概ね10年頃に生まれ、78年9月23日に没したと推定されています。教皇としての在位期間も正確には不明ながら、一般には66年頃から没するまでの期間と想定されています。彼はキリスト教の伝統的な教会で聖人として崇敬されています。

しかしながら、リヌスをはじめとする初期のローマ司教たちに関する歴史的な史料は極めて限られており、その生涯や事績の多くは後世に伝えられた伝承や記録に拠る部分が大きいのが実情です。特にローマ教会の最初の数世紀に関する史料は断片的であるため、歴史学的な検証によってその全てを厳密に裏付けることは困難が伴います。このため、初期教皇に関する記述は、異なる史料間で相違が見られることも少なくありません。

使徒ペトロの直接の後継者が誰であったかという点についても、古代の史家や著述家たちの間で異説が存在しました。たとえば、テルトゥリアヌスは、ペトロの後を継いだのはクレメンス1世であったと述べています。これに対し、教会史家エウセビオスをはじめとする他の古代の著述家たちは、一致してリヌスがペトロの次にローマ司教の座に就いたと記録しています。現代の歴史研究においても、リヌスが第2代教皇であったとする見解が主流となっています。リヌスがローマ司教に就任した正確な年は定かではありませんが、多くの古代の記録は67年頃としており、これはあくまで推定の域を出ないと考えられています。

リヌスに関する伝承の中には、彼が使徒ペトロとパウロによってローマ司教の後継者として指名されたという話が伝えられています。これは、彼が使徒からの権威を継承した人物であるという位置づけを強調するものです。また、彼の最期についても、エイレナイオスの著作を除く複数の古代の史料が、彼が信仰のために殉教したと伝えています。もし殉教したとすれば、それはローマ帝国による迫害下での出来事であった可能性が考えられます。彼の遺体は、最初のローマ司教である使徒ペトロが葬られたとされるバチカンの丘に埋葬されたと伝えられています。これは、彼がペトロの後継者として重要な地位にあったことを示唆しています。

新約聖書の一書である『テモテへの手紙二』4章21節に記されている「リノス」という人物と、この第2代ローマ司教リヌスとを同一人物とする伝承も存在します。正教会では、この聖書中のリノスを七十門徒の一人に数えており、彼の記憶日はユリウス暦で11月5日（現代のグレゴリオ暦では11月18日）に定められています。ただし、この同一視の信憑性については、学術的な議論があります。

このように、リヌスは伝統的に使徒ペトロに続くローマ教会の指導者として重要な位置を占めている人物ですが、その生涯の詳細は限られた史料と多くの伝承に依存しています。初期キリスト教史の黎明期における指導者の姿を理解する上で、史料の限界を踏まえつつ、伝えられている事柄を総合的に考察する必要があります。彼は、ペトロから現代へと続くローマ教皇の系譜において、初期の重要な人物として記憶されています。

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