リヒャルト・タウバー

リヒャルト・タウバー

20世紀前半を代表するテノール歌手の一人、リヒャルト・タウバー（Richard Tauber、1891年 - 1948年）は、その比類なき歌唱技術から「ベルカントの王」と称されました。オーストリア＝ハンガリー帝国に生まれ、オペラやオペレッタ、俳優として活躍し、後に英国に帰化しました。

生涯

リヒャルト・タウバーは1891年5月16日、リンツにて、オペラ歌手の母と劇場芸術監督の父の非嫡出子として誕生しました。幼少期は里親のもとで育ち、カトリックの洗礼を受けましたが、父方の祖父母がユダヤ系であったことから、ナチスによる迫害対象となり、その理由を深く理解することはありませんでした。12歳で父のもとに移り、中等教育を受けました。音楽教育は、フランクフルトのホッホ音楽院でピアノと作曲、後に指揮を学び、声楽はカール・バイネスに師事し才能を磨きました。

1912年に舞台デビュー、翌1913年にはケムニッツ劇場で『魔笛』タミーノ役でオペラデビュー。同年、父と養子縁組しタウバー姓となります。1913年末にはドレスデン国立歌劇場と専属契約を結び、宮廷歌手として様々なオペラで活躍。その後、ベルリン国立歌劇場やウィーンでも活動しました。1921年からはフランツ・レハールのオペレッタにも出演し、ザルツブルク音楽祭でもレハール作品を披露するなど、オペレッタ界でも人気を確立。友人レハールはタウバーのために多くのテノール役を作曲しました。

1920年代にはモーツァルト作品の歌唱で高い評価を得ました。特に、レハールのオペレッタ『微笑みの国』で歌ったアリア「君こそ我が心の全て（Dein ist mein ganzes Herz）」の爆発的な成功は、タウバーを一躍国際的なスターダムへと押し上げました。

私生活では、1926年に歌手と結婚しますが1928年に離婚。経済的な困難も経験しました。また、ナチスの台頭は彼の人生を大きく変えました。1933年にはベルリンで突撃隊員から暴行を受ける事件が発生。この経験からドイツからの脱出を決意。1935年にイギリス人女優と再婚しましたが、長くは続きませんでした。1938年のオーストリア併合後、ユダヤ系の血を引くタウバーはナチス政権の迫害から逃れるため、最終的に英国へ移住し、1940年に英国市民権を取得しました。

第二次世界大戦中、英国に留まったタウバーは、コベント・ガーデン王立歌劇場での公演や指揮、戦時中の慰問公演など精力的に活動。その風貌から「モノクル（片眼鏡）の男」とも呼ばれました。

1946年にお別れコンサートを開いた後、晩年は作曲と指揮に専念。1947年9月、ロンドンでのオペラ出演が最後の舞台となりました。その数ヶ月後の1948年1月8日、ロンドンの病院で肺がんのため56歳で死去。ロンドンのブロンプトン墓地に埋葬されました。多額の負債を残しましたが、残された妻は同僚らの支援を得て葬儀を執り行いました。ロイヤル・アルバート・ホールでは追悼コンサートが開かれ、多くの人々が彼の死を悼みました。

リヒャルト・タウバーは、その美しい歌声と表現力で、20世紀を代表するテノール歌手として、今なお記憶されています。いくつかの映画にも出演しています。

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