リビアの巫女 (ミケランジェロ)

ミケランジェロの傑作『リビアの巫女』

『リビアの巫女』（伊: La Sibilla Libica, 英: The Libyan Sibyl）は、ルネサンス期の巨匠ミケランジェロ・ブオナローティが1512年にシスティーナ礼拝堂の天井画の一部として制作したフレスコ画です。この作品は、ギリシア神話に登場するアポロンの巫女であるシビュラの中でも、リビアのシビュラを主題としています。

作品の詳細

ミケランジェロは、システィーナ礼拝堂の天井画において、『旧約聖書』の場面を囲むように、預言者と巫女を交互に配置しました。『リビアの巫女』は、天地創造の初日を描いた『光と闇の分離』の隣に描かれ、礼拝堂の中でも奥まった場所に位置しています。制作時期は1512年の夏頃と考えられています。

巫女は、優雅な動きで大きな書物を持つ姿で描かれています。預言者というよりも高貴な女性として表現され、華麗な衣装をまとっています。陰鬱な雰囲気のエレミヤとは対照的に、ほのかな微笑みが明るい印象を与えます。巫女は座っていた玉座から立ち上がり、開いた書物を閉じ、書見台に置こうとしています。この動きはコントラポスト（対比）の技法を見事に示しており、上半身を捻り、背中を鑑賞者に向けています。緑色の外衣を脱ぎ、玉座の背もたれにかけているため、背中や肩、腕が露わになっています。また、衣服の裾が膝上で折り返され、藤色のシュミーズと素足が見えています。大きな書物の表紙には緑色のカバーがかけられており、これは神託が記されたシビュラの書であると考えられます。巫女のそばには2人のプットーがおり、互いに顔を見合わせて何かを話しています。1人は巻物を抱え、巫女を指さしており、巫女と一緒に出かけようとしているかのようです。

図像の着想源

図像の着想源としては、フィリッポ・バルビエーリの著作が指摘されています。彼は、リビアのシビュラが「昼が来て凝縮した影を照らし出し、人々の唇は閉ざされる。かくして彼らは生存の王を見る」と予言していると述べています。ミケランジェロの作品では、巫女の頭上に光と闇を分ける唯一神の姿があり、巫女の横顔は光で照らされ、唇を結んでいます。彼女は書見台ではなく、礼拝堂内の祭壇を見下ろし、そこで起こる奇跡に心を奪われているかのようです。

準備素描

メトロポリタン美術館に所蔵されている準備素描は、男性モデルを使用して描かれたことを示しています。ミケランジェロは、男性の骨格や筋肉の粗さを脂肪質の柔らかさで和らげることで、女性らしさを表現しました。素描の左下には、横顔の変更を試みた跡が見られます。また、素描の下部には、巫女の手足を注意深く構築している様子が描かれています。これらの要素は、フレスコ画でさらに研ぎ澄まされ、輝かしく表現されています。

色彩

ミケランジェロの色彩は非常に鮮やかです。衣服のオレンジ色とシュミーズの藤色が対比をなし、構図全体を支配しています。外衣の緑色は美しく、袖は金色で縁取られ、書物のカバーや書見台の緑色と調和しています。藤色のスカーフで束ねられた巫女の金髪は、胸衣のオレンジ色と呼応しています。

修復

1980年から1989年にかけて行われた修復により、過去の加筆や変色したワニスが除去され、制作当時の色彩が取り戻されました。修復の成果は、原寸大模型の展示を通じて一般にも公開され、ミケランジェロの技法が明らかにされました。

準備素描の詳細

メトロポリタン美術館の準備素描は、高さ28.9センチ、横幅21.4センチと小さめですが、本作品のために作成されたことは間違いありません。紙の表裏両面に描かれており、表面には筋肉の細部まで描かれた上半身と横顔、左手、左足が、裏面には下半身が描かれています。素描の裏面に記された番号は、ブオナローティ家に由来する素描に確認できるものと一致しており、ミケランジェロへの帰属の重要な証拠とされています。この素描は、カルロ・マラッタ、アンドレア・プロカッチーニを経て、19世紀後半にはアウレリアーノ・デ・ベルエーテの手に渡り、彼の死後、メトロポリタン美術館が購入しました。

『リビアの巫女』は、ミケランジェロの卓越した技量と、深い知識、そして豊かな創造性が結実した傑作です。システィーナ礼拝堂を訪れる際には、ぜひこの作品をじっくりと鑑賞し、その魅力に触れてみてください。

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