リボヌクレアーゼ

リボヌクレアーゼ（RNase）

リボヌクレアーゼ、しばしばRNase（アールエヌアーゼまたはアールエヌエース）と略記されるこの酵素は、ヌクレアーゼファミリーの一員として、生体内のリボ核酸（RNA）分子を分解する役割を担っています。具体的には、RNAのホスホジエステル結合を加水分解することで、より短いオリゴヌクレオチドや単一のモノヌクレオチドへと変換する化学反応を触媒します。

生物における役割と分類

RNaseは、地球上のあらゆる生物種に普遍的に存在しており、RNAの代謝において極めて重要な機能を果たしています。これらの酵素は、その作用様式によって大きく二つの主要なカテゴリーに分類されます。

エンドリボヌクレアーゼ (Endoribonuclease): RNA分子の鎖の途中のリン酸ジエステル結合を切断する酵素です。これにより、RNAは内部から分断されて短くなります。
エキソリボヌクレアーゼ (Exoribonuclease): RNA分子の末端からヌクレオチドを一つずつ遊離させていく酵素です。通常、3'末端または5'末端から作用します。

RNaseは非常に多様な種類があり、その中には特定の塩基配列やRNAの立体構造を認識して作用する、高い基質特異性を持つものも存在します。この特異性により、RNA分子は正確な位置で切断されたり、特定の目的に応じて分解されたりします。

主要なリボヌクレアーゼの種類

多くのRNaseが同定されており、それぞれが細胞内で独自の機能を持っています。代表的なものをいくつか紹介します。

主要なエンドリボヌクレアーゼ

RNase A (EC 3.1.27.5): 研究室で最も頻繁に利用されるRNaseの一つであり、その非常に高い安定性が特徴です。細胞抽出液を煮沸しても活性が失われないほど耐熱性が高いため、他の酵素を変性させてRNase Aを精製する手法も存在します。一本鎖RNA上のピリミジン塩基（シトシン:Cまたはウラシル:U）の3'側を切断し、3'末端にリン酸基を持つ断片を生成します。
RNase H (EC 3.1.26.4): DNAとRNAのハイブリッド二重鎖において、RNA鎖のみを選択的に切断するRNaseです。これにより、一本鎖DNAが遊離します。非特異的な切断を行うエンドヌクレアーゼであり、加水分解反応には二価金属イオンの結合が必須です。切断生成物の5'末端にリン酸基が生じます。
RNase III (EC 3.1.26.3): 主に二本鎖RNA（dsRNA）を認識して切断します。原核生物では、リボソームRNA（rRNA）前駆体のプロセシング（成熟化）に不可欠な役割を担います。また、真核生物においても、短い機能性RNAであるmiRNA（マイクロRNA）がpre-miRNA（前駆体）から成熟する過程に関与し、遺伝子発現の調節に深く関わっています。
RNase P (EC 3.1.26.5): RNase Pは、その触媒活性を持つ部分がRNA分子自体であるという点で、他の多くのタンパク質性酵素とは異なります。このようなRNA酵素は「リボザイム」と呼ばれます。RNase PはtRNA（転移RNA）前駆体の5'末端から余分な配列を切断することで、機能を持つ成熟したtRNAを生成します。
RNase L (EC 3.1.26.5): ウイルス感染などに応答してインターフェロンによって誘導されるRNaseです。活性化されると細胞内のさまざまなRNAを無差別に分解し、ウイルスの複製を抑制する防御機構の一つとして機能します。
RNase T1 (EC 3.1.27.4): 一本鎖RNAの特定の部位、特にグアニン（G）の3'側を切断する高い特異性を持ちます。
RNase T2 (EC 3.1.27.1): 一本鎖RNAの全ての塩基の3'側を切断する活性を持ちますが、特にアデニン（A）の3'側を切断することを優先します。

主要なエキソリボヌクレアーゼ

エキソリボヌクレアーゼは、RNA鎖の末端からヌクレオチドを取り除くことでRNAを分解します。多くは3'から5'方向へ作用します。

Polynucleotide Phosphorylase (PNPase, EC 2.7.7.8) / RNase PH (EC 2.7.7.56): これらのエキソリボヌクレアーゼは、RNA分解活性だけでなく、逆向きのヌクレオチジルトランスフェラーゼ活性（RNA合成とは異なるポリメラーゼのような活性）も持ち合わせていることが知られています。
RNase II / RNase R: 一本鎖RNAを3'から5'方向へ分解する主要なエキソリボヌクレアーゼです。RNase RはRNase IIと構造が似ていますが、RNAの二次構造を分解する能力に優れています。
RNase D (EC 3.1.13.5) / RNase T: tRNAやrRNAといった機能性RNAの3'末端を刈り込んで成熟させるプロセスにおいて重要な役割を果たします。
Oligoribonuclease (EC 3.1.13.3): 短いオリゴRNA断片を、最終的に単一のモノヌクレオチドまで分解する酵素です。

活性の制御

細胞内には、特定のRNA分子が必要な機能を発揮するために、RNaseによる分解から保護するメカニズムが存在します。その一つに、リボヌクレアーゼインヒビターと呼ばれるタンパク質があります。これはRNaseと結合してその活性を阻害することで、特にメッセンジャーRNA（mRNA）などの重要なRNAが時期尚早に分解されるのを防いでいます。

歴史的な意義

リボヌクレアーゼ、特にウシ膵臓由来のRNase Aは、生化学の歴史において重要な位置を占めています。これは、酵素として初めて一次構造（アミノ酸配列）が完全に決定されたタンパク質の一つであるためです。この業績は、タンパク質の機能がその特定の立体構造、そして最終的にはアミノ酸配列によって決定されることを明らかにする上で画期的なものであり、この研究に貢献した化学者たちはノーベル化学賞を受賞しています。

関連項目

デオキシリボヌクレアーゼ

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