リボース-5-リン酸

リボース-5-リン酸（英: Ribose 5-phosphate, R5P）は、細胞の代謝において重要な位置を占めるリン酸化された五炭糖です。特に、ペントースリン酸経路と呼ばれるグルコース代謝の主要な経路の一つで生成される、鍵となる中間代謝産物として知られています。

生成と代謝経路

リボース-5-リン酸は、主にペントースリン酸経路の非酸化段階において生成されます。この経路は、グルコース-6-リン酸から始まり、酸化段階でNADPHとリブロース-5-リン酸を生成します。リブロース-5-リン酸は、ケトース（ケトン基を持つ糖）であり、このリブロース-5-リン酸が、リボース-5-リン酸イソメラーゼという酵素の働きによって、アルドース（アルデヒド基を持つ糖）であるリボース-5-リン酸に異性化（構造変換）されます。この反応は可逆的であり、細胞のニーズに応じてリブロース-5-リン酸とリボース-5-リン酸の間で平衡が保たれています。

生成されたリボース-5-リン酸は、細胞内で二つの主要な役割を果たします。

1. 核酸合成の前駆体: リボース-5-リン酸は、核酸（DNAやRNA）を構成する基本単位であるヌクレオチドの骨格となるリボース部分の供給源となります。リボース-5-リン酸は、さらにリボースリン酸ジホスホキナーゼという酵素によってホスホリボシル二リン酸（PRPP）に変換されます。このPRPPが、プリンヌクレオチド（アデニン、グアニン）やピリミジンヌクレオチド（シトシン、ウラシル、チミン）のデノボ合成経路における最初の段階で利用される極めて重要な中間体となります。PRPPは、ヌクレオチド合成だけでなく、NAD(P)+、ヒスチジン、トリプトファンなどの生合成にも関与します。したがって、リボース-5-リン酸からPRPPへの変換は、細胞の増殖や遺伝情報の発現・維持に不可欠なプロセスです。

2. 解糖系中間体への変換: ペントースリン酸経路の非酸化段階では、リボース-5-リン酸を含む様々な五炭糖リン酸（リブロース-5-リン酸、キシロース-5-リン酸など）が、トランスケトラーゼやトランスアルドラーゼといった酵素の働きにより、六炭糖（ヘキソース）や三炭糖（トリオース）のリン酸エステルに相互変換されます。具体的には、リボース-5-リン酸は、キシロース-5-リン酸と共にトランスケトラーゼの基質となり、セドヘプツロース-7-リン酸とグリセルアルデヒド-3-リン酸を生成します。さらにセドヘプツロース-7-リン酸とグリセルアルデヒド-3-リン酸はトランスアルドラーゼによりフルクトース-6-リン酸とエリトロース-4-リン酸に変換される経路も存在します。このうち、生成物であるグリセルアルデヒド-3-リン酸やフルクトース-6-リン酸は、細胞のエネルギー産生経路である解糖系の主要な中間体でもあります。このように、ペントースリン酸経路はリボース-5-リン酸を介して解糖系と連携しており、余剰なリボース-5-リン酸をエネルギー代謝に回したり、逆に解糖系の中間体からペントースリン酸経路へ物質を供給したりすることが可能です。

生体における重要性

リボース-5-リン酸の代謝は、細胞の機能維持に多方面から貢献しています。核酸合成の原料供給を通じて、細胞分裂やタンパク質合成といった生命活動の根幹を支えています。また、ペントースリン酸経路で同時に生成されるNADPHは、脂肪酸合成やコレステロール合成といった生合成反応に必要な還元力（電子）を提供するとともに、グルタチオン還元酵素などを介して酸化ストレスから細胞を保護する抗酸化システムにおいて重要な役割を果たします。リボース-5-リン酸の産生と利用は、細胞の増殖速度や酸化状態に応じて適切に調節されており、生命現象の恒常性維持に不可欠な要素と言えます。

リボース-5-リン酸