リュートを調弦する女

リュートを調弦する女

『リュートを調弦する女』は、オランダの画家ヨハネス・フェルメールによって1662年から1663年にかけて描かれた油彩画です。この作品は、リュートを調律している若い女性の姿を捉えており、フェルメールの作品の中でもその構図が特に優れています。しかし、現存する作品の中では最も保存状態が悪いとされています。

作品の描写

絵画では、女性が窓際に位置し、リュートの弦を調整しています。彼女は耳を近づけて音を確認しつつ、外の風景に視線を向けています。その姿からは、彼女が音楽に集中しながらも外の世界への興味を示していることが窺えます。彼女は白い毛皮で縁取られた黄色い上着を着ており、真珠のイヤリングやネックレスを身に着けています。これにより、彼女の優雅さと同時に中流階級の女性像が描かれています。

テーブルには開かれた唱歌集が置かれ、その下には床にヴィオラ・ダ・ガンバが見えます。このことから、彼女がデュエットの準備をしている様子が伺え、音楽が重要な役割を果たしていることが強調されています。オランダの裕福な家庭では音楽教育が奨励され、演奏を通じて男女間の交流が生まれることがありました。

構図の巧みさ

フェルメールの構図は技巧的で、同美術館に所蔵されている『水差しを持つ女』と同様に、女性と地図が視覚的に干渉しないように配置されています。左側の窓から入る柔らかな光が中景を明るく照らし、前景を暗く設定することで、視覚的な奥行きが生まれています。この作品は、画家が建築空間の描写を徐々に磨いていく過程を示しています。

音楽とその象徴

大理石の床に置かれたヴィオラ・ダ・ガンバは、リュートとともに絵画に描かれることが多い楽器の一つです。この作品には音楽をテーマにした他の作品も存在し、音楽は愛と調和の象徴として位置づけられています。リュートとヴィオラ・ダ・ガンバの共演は、単なる楽器以上の象徴的な意味を持ち、散らばった唱歌集はデュエットや恋愛についての期待感を表現しています。

地図の詳細

背景にはヨーロッパの地図が飾られており、興味深い点はその精密さです。イベリア半島や北アフリカ、イタリアなどの地名が詳細に描かれており、描かれた地図は制作時のものとほぼ同じサイズだとされています。この事実により、フェルメールがカメラ・オブスクラを使用している可能性が語られています。

椅子と床のデザイン

作品の中で特に目を引くのが椅子のデザインです。特徴的な獅子頭の彫刻が施された椅子は、当時の豊かさを表現しており、視覚的な美しさを加えています。また、斜めの格子模様の床は他のフェルメール作品と異なり、立体感を持たせつつも視覚的な連続性を保っています。

保存状態と歴史

『リュートを調弦する女』は、多くのフェルメール作品の中で最も経年劣化が進んでおり、暗い調子が印象的です。絨毯や椅子の色彩も落ち着いたトーンになっています。この作品の歴史は1817年に遡りますが、多くの著名なコレクターが所有し、最終的にはメトロポリタン美術館のコレクションとして知られるようになりました。

以上のように、フェルメールのこの作品は、音楽や女性像、巧妙な構図のすべてを含んだ魅力的な作品であり、その保存状態や歴史なども合わせて、鑑賞者に深い印象を与えます。

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