リリアン・バエル

リリアン・バエル：ベルギー王室の影の王妃

リリアン・バエル（1916年11月28日-2002年6月7日）は、ベルギー国王レオポルド3世の2度目の妻として知られています。彼女の人生は、王室への嫁入り、そして王室の外での複雑な立場という、ドラマチックな展開に満ち溢れていました。

リリアンは、第一次世界大戦下のロンドンで、ベルギー人の両親のもとに生まれました。彼女の父は海産品輸入業を営んでおり、戦火を逃れてロンドンに滞在していました。1936年、彼女の父がベルギーで農業大臣に就任したことをきっかけに、レオポルド3世と出会い、後に結婚することになります。レオポルド3世は、前妻アストリッド王妃を交通事故で亡くしたばかりでした。

国王とリリアンを引き合わせたのは、王太后エリザベートでした。二人はゴルフという共通の趣味を通して親密になり、1941年9月11日に教会婚を挙げました。しかし、この結婚はベルギーの法律では正式な婚姻とは認められず、リリアンは国王の非公式の妻という立場にとどまりました。これは、リリアンが平民出身であったことによるものか、あるいはレオポルド3世の真意はどこにあったのか、はっきりとは分かっていません。

その後、メヘレン大司教による正式な結婚式が執り行われ、リリアンはベルギー王女の称号を得ました。このことで、彼女の子供たちもベルギー王室の一員として認められるようになりました。しかしながら、リリアンは生涯、『王妃』と呼ばれることはありませんでしたし、彼女の子供たちは王位継承権も認められませんでした。

この結婚は、いくつかの政治的、社会的要因に影を落としました。結婚に際しては、アドルフ・ヒトラーから花束が贈られるなど、レオポルド3世のナチスへの親近さが問題視され、リリアンもナチスの共感者であるというレッテルを貼られました。国民的人気を博していた前王妃アストリッドへの弔いの気持ちも、リリアンにとって大きな障壁となりました。

第二次世界大戦中、レオポルド3世とリリアンはドイツの監視下に置かれ、オーストリアへ連行されました。その間、ベルギーではレオポルド3世の弟であるフランドル伯シャルルが摂政を務めました。

ドイツの敗戦後、レオポルド3世は復位を試みましたが、戦時中の彼の行動に対する反発から、社会主義者らによる大規模な暴動が発生しました。ベルギーは深刻な政治的危機に直面し、レオポルド3世は結局退位、彼の長男ボードゥアン1世が王位を継承しました。その後、レオポルド3世とリリアンはベルギーを離れ、長年国外で暮らすことになりました。

リリアンとレオポルド3世の間に生まれた子供たちは、以下の通りです。

アレクサンドル（1942年 - 2009年）
マリー＝クリスティーヌ（1951年 - ）
* マリー＝エスメラルダ（1956年 - ）

リリアン・バエルの人生は、平民から王室の一員になったものの、常に複雑な立場に置かれ続けた、波瀾万丈なものでした。彼女の生涯は、王室の権力闘争、戦争、そして社会の変動といった歴史的出来事と深く関わっており、20世紀のヨーロッパの歴史を理解する上で重要な視点を与えてくれます。

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