リンゴの木の下の聖母子

ルーカス・クラナッハ（父）作『リンゴの木の下の聖母子』

『リンゴの木の下の聖母子』（原題：Madonna and Child under the Apple Tree）は、ドイツ・ルネサンスの巨匠ルーカス・クラナッハ（父）が1530年頃に制作した油彩画です。もともとは板に描かれていましたが、1868年にキャンバスへ移されました。この作品は、聖母マリアを主要なテーマとしており、クラナッハの画業において中心的な位置を占めています。現在は、ロシア・サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館に所蔵されています。

作品の特徴

クラナッハの聖母像は、自然風景の中に配置されることが多いのが特徴ですが、本作はその典型的な例と言えるでしょう。画面の大部分を占める聖母マリアは、金色の巻き毛を背中や肩に流し、まるで外套のように幼子イエスを包み込んでいます。顎に向かって細くなる顔の輪郭、細い目、広い額など、その美しさは、クラナッハが当時活動していたヴィッテンベルクで流行していた女性美の理想を反映しています。聖母は、両手で幼子イエスを優しく、そしてしっかりと抱きかかえています。

背景には、川と岩山、そしてその上に建つ城が描かれており、遠近感と奥行きを感じさせます。クラナッハは、画面全体の統一感を出すために色彩を巧みに利用しており、聖母の右肘の脇に描かれたセイヨウネズの茂みがその一例です。この植物は、画面に色彩的なアクセントを加えるとともに、象徴的な意味も持っています。

聖母の頭上に実るリンゴは、画面にリズミカルな動きを与えているだけでなく、イエスの左手に握られたリンゴとともに、「原罪」を象徴しています。聖母は、アダムとイブの罪を贖う「第二のイブ」として描かれており、イエスが右手に持つパンは、彼の贖罪と聖体を象徴します。セイヨウネズの木は、永遠の生命を意味する寓意であり、イエスと徳の象徴としても捉えられています。

作品の象徴性

この絵画には、多くの象徴的な要素が散りばめられています。リンゴは原罪、パンはキリストの聖体、セイヨウネズは永遠の生命を象徴しています。聖母マリアは、人類の罪を贖う「第二のイブ」として描かれており、イエスは人類を救う救世主として表現されています。これらの要素は、鑑賞者に深い宗教的なメッセージを伝えています。

まとめ

『リンゴの木の下の聖母子』は、クラナッハの卓越した画力と深い宗教観が融合した傑作です。自然の中に聖母子を配置するという独特のスタイル、細部にまでこだわった象徴的な表現は、観る者を魅了してやみません。エルミタージュ美術館を訪れた際には、ぜひこの作品を鑑賞し、クラナッハの芸術世界を堪能してください。

参考資料

『大エルミタージュ美術館展　オールドマスター　西洋絵画の巨匠たち』、エルミタージュ美術館、日本テレビ放送網、読売新聞社、BS日テレ、森アーツセンター、2017年刊行
五木寛之編著『NHK エルミタージュ美術館 3 近代絵画の世界』、日本放送出版協会、1989年刊行 ISBN 4-14-008625-4
* Web Gallery of Artサイト、ルーカス・クラナッハ『リンゴの木の下の聖母子』 (英語)

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