ルイ・ロペス

ルイ・ロペス

ルイ・ロペスは、チェスにおいて最も歴史が古く、かつ現代でも頻繁に指される主要なオープニングの一つです。その名称は、16世紀のスペインのチェスプレーヤー、ルイ・ロペス・デ・セグラに由来します。彼がこのオープニングを研究し広めたことから、その名が冠せられました。

英語圏では「ルイ・ロペス」として知られていますが、その他の国々では考案者の出身国にちなんで「スペイン定跡」「スペイン布局」「スペイン・ゲーム」「スパニッシュ・ゲーム」などとも呼ばれています。

このオープニングの基本形に至る手順は以下の通りです。

1. e4 e5
2. Nf3 Nc6
3. Bb5

白はキング側のポーンを中央にe4に進め、それに対し黒もe5で応じます。白は次にキング側のナイトをf3に展開し、黒はクイーン側のナイトをc6に展開します。3手目で白はキング側のビショップをb5に進め、黒のc6ナイトを攻撃します。この3手目がルイ・ロペスの特徴的な一着です。

日本のチェスプレーヤーである有田謙二氏は、ルイ・ロペスを「ポーンを中央に出し、ナイトをビショップより先に展開し、早期のキャスリングを目指すという、チェスの基本に忠実なオープニング」と評しています。これは、ルイ・ロペスがチェスの戦術的な原則を多く含んでおり、初心者から上級者まで学べる、いわば「オープニングの基本形」であることを示唆しています。

ルイ・ロペスでは、黒の3手目に対する応手によって、非常に多岐にわたる変化が生じます。

主要な変化

モーフィー・ディフェンス (3... a6)

黒が3手目に 3... a6 と指す形は、モーフィー・ディフェンスと呼ばれ、ルイ・ロペスの中で最も研究が進んでおり、変化の種類も豊富です。黒は次にビショップをb4に展開（ピン）される可能性を防ぎます。

白の4手目としては 4. Ba4 か 4. Bxc6 が一般的です。4. Bc4 や 4. Be2 は手損とされることが多いです。4. Bxc6 と指した場合、ポーン構造に影響を与えるエクスチェンジ・ヴァリエーションへと移行します。

4. Ba4 に対する黒の応手は多様で、4... Nf6、4... Bc5、4... d6、4... f5、4... Nge7、4... Nd4、4... g6、4... b5 などがあります。

中でも最もよく指されるのは 4... Nf6 です。この場合、白の5手目としては 5. 0-0 が最も推奨されますが、5. Qe2 も有力です。5. Nc3、5. d4、5. d3、5. Bxc6、5. c3 などもありますが、現代ではあまり見られません。

4. Ba4 Nf6 5. 0-0 と進んだ後、黒は 5... Nxe4 (オープン・ヴァリエーション) か 5... Be7 (クローズド・ヴァリエーション) を選択するのが主流です。オープン・ヴァリエーションは駒の交換が多く、より戦術的な展開になりやすい傾向があります。クローズド・ヴァリエーションはより閉鎖的な局面となり、ポジションによる戦いが中心になります。

クローズド・ヴァリエーションの典型的な進行としては、5... Be7 に続き、6. Re1 b5 7. Bb3 となります。黒の7手目としては 7... 0-0、7... d6、7... Bb7 などがあります。7... 0-0 と指すと、その後の 8. c3 d5 から有名なマーシャル・ギャンビットが生じ得ます。一方、7... d6 と進めば、8. c3 0-0 9. h3 といった手順を経て、クローズド・ヴァリエーションの主要なラインに進みます。

4. Ba4 に対し 4... Bc5 と指すラインでは、5. 0-0 Nf6 6. c3 Ba7 7. d4 b5 8. Bb3 Qe7 9. Bd5 ed 10. Bg5 h6 11. Bxf6 Qxf6 12. e5 と進行すると、白が有利になる傾向があります。

4. Ba4 に対し 4... d6 と指すラインは、5. c3 Bd7 6. d4 Nf6 7. 0-0 Be7 8. Nbd2 0-0 9. Re1 Be8 と進むと形勢は互角とされています。この白の5手目では他に 5. Bxc6+ (1手遅れの交換)、5. 0-0 (Bg4 h3 h5! でエクスチェンジ・ヴァリエーションに類似)、5. d4、5. c4 などもあります。

4. Ba4 に対し 4... f5 と指すラインでは、5. d4 ed 6. e5 Bc5 7. c3 dc 8. Nxc3 Nge7 9. Bb3 d5 10. 0-0 Be6 といった進行が考えられます。白の5手目では 5. Nc3 もあります。黒の5手目 5... fe に対しては 6. Nxe5 Nf6 7. Bg5 と進むと白が有利になります。白の6手目 6. e5 の代わりに 6. Nxd4 とした場合、6... Nxd4 7. Qxd4 c5 8. Qe5+ Qe7 9. Qxe7+ Bxe7 と進むと形勢は互角です。また、黒の6手目 6... Bc5 の代わりに 6... Bb4+ と指した場合、白が 7. c3 dc 8. 0-0! とギャンビットすることで、多くのオープン・ファイルを確保し白にとって面白い局面となります。

バード・ディフェンス (3... Nd4)

黒が3手目にナイトをd4に跳ねる 3... Nd4 は、バード・ディフェンスと呼ばれます。

白の4手目としては 4. Nxd4、4. Bc4、4. Ba4 が主な選択肢です。通常、f1から一度動かしたビショップをc4に戻すのは非効率とされますが、バード・ディフェンスにおいては 4. Bc4 も有力な定跡の一つとして認識されています。

白が 4. Nxd4 と指すと、黒は通常ポーンで取り返し 4... ed となります。その後の典型的な進行は 5. 0-0 c6 6. Bc4 Nf6 7. Re1 d6 8. d3 Be7 9. Nd2 0-0 などです。白の5手目では 5. 0-0 の他に 5. d3 や 5. Bc4 もあります。黒の5手目では 5... c6 の他に 5... Ne7、5... g6、5... Bc5 などもあり、例えば 5... Ne7 の場合は 6. Re1 g6 7. d3 Bg7 8. c3 Nc6 と進みます。

4. Nxd4 ed 5. 0-0 c6 からの白の6手目では 6. Bc4 と並んで 6. Ba4 も選択肢であり、この場合 6... Nf6 7. d3 d5 と進行することが多いです。この途中の白の7手目 7. e5 に対しては、黒は 7... Nd5 と応じます。

4. Nxd4 ed 5. 0-0 c6 6. Bc4 の局面で黒が 6... Bc5? と指すのは悪手となり、7. Bxf7+ Kxf7+ 8. Qh5+ と進むと白がポーン得となり有利になります。

クラシカル・ディフェンス (3... Bc5)

黒が3手目にキング側のビショップをc5に展開する 3... Bc5 は、クラシカル・ディフェンスと呼ばれています。

白の4手目としては 4. c3 や 4. 0-0 が主要な手です。4. Nxe5 と指すと、4... Nd4 とナイトを跳ねられ、5. Bc4 Qg5 と進めば黒が有利になります。ただし、もし黒が4手目で 4... Nxe5 とポーンを取ると、白に 5. d4 と指され、ナイトをフォークされてしまうため注意が必要です。

白が 4. c3 と指した後の黒の4手目には、4... Nf6、4... d6、4... Nge7、4... Qf6 などがあります。4... Nf6 と進むと、5. 0-0 0-0 6. d4 Bb6 7. de Nxe4 8. Qd5 Nc5 9. Bg5 といったラインがあります。この進行中、黒の5手目 5... Nxe4 に対しては 6. Qe2 d5 7. d3 で白が有利になります。また、5手目で 5... Qe7 としても 6. d4 Bb6 7. Bg5 と進み、やはり白が有利になる傾向があります。

4. c3 Nf6 5. 0-0 0-0 6. d4 Bb6 の局面での白の7手目としては、7. de の他に 7. Bg5 や 7. Re1 があります。7. Bxc6 と指すと、7... dc 8. Nxe5 Nxe4 9. Re1 Nd6 と進行し、黒がポーン構造の不利を補って余りあるほど駒の展開が良くなる可能性があります。この白の8手目 8. Bg5 に対しては、黒が 8... Bg4 と指すことで黒が有利になる局面が現れることがあります。

フィアンケット・ヴァリエーション (3... g6)

黒が3手目に 3... g6 と指す形は、フィアンケット・ヴァリエーションと呼ばれます。これは元世界チャンピオンのワシリー・スミスロフが好んで採用したことでも知られています。黒の主な狙いは、次の手で 4... Bg7 とキング側のビショップをフィアンケットし、長い対角線上に配置することにあります。

その他の変化

上記以外にも、黒の3手目には様々な応手が存在します。主なものとして以下の変化が挙げられます。

3... Nf6 （ベルリン・ディフェンス）
3... d6 （シュタイニッツ・ディフェンス）
3... f5 （シュリーマン・ディフェンス）
3... Nge7 （コツィオ・ディフェンス）
* 3... Qf6

これらの変化もそれぞれ独自の理論と戦術的アイデアを持っており、ルイ・ロペスというオープニングの奥深さを形成しています。

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