ワシリー・スミスロフ

ワシリー・ワシリエビッチ・スミスロフ

ワシリー・ワシリエビッチ・スミスロフ（1921年3月24日 - 2010年3月27日）は、ソビエト連邦が生んだ傑出したチェスプレイヤーであり、1957年から1958年にかけて世界チャンピオンの栄誉に輝いた人物です。モスクワに生を受けた彼は、わずか6歳で父からチェスの手ほどきを受け、その才能を開花させました。

キャリアの初期

スミスロフの才能は早い段階から注目を集めました。1938年にはソ連ジュニアチャンピオンに輝き、さらに数ヶ月後にはモスクワチャンピオンのタイトルも獲得しています。彼のキャリアにおける重要な節目の一つは、1946年に当時の世界チャンピオンであったアレクサンドル・アレヒンの死去に伴い、新たな王者を決定するために開催された1948年の大会でした。このトーナメントには、マックス・エーワ、サミュエル・ハーマン・レシェフスキー、パウリ・ケレス、そしてミハイル・ボトヴィニクといった強豪が集結しました。結果として、ボトヴィニクが優勝し初代ソ連出身世界チャンピオンとなりましたが、スミスロフも優れたパフォーマンスを見せ、2位という好成績を収めました。

ボトヴィニクとの激闘

スミスロフの競技人生は、同時代の絶対王者ミハイル・ボトヴィニクとのライバル関係によって強く特徴づけられます。彼は世界選手権のマッチに3度挑戦しました。

1954年: 初めて世界チャンピオンの座に挑んだスミスロフは、王者ボトヴィニクと熱戦を繰り広げました。7勝10引き分け7敗という全くの互角の成績を収めましたが、規定によりボトヴィニクがタイトルを防衛しました。
1957年: 再びボトヴィニクに挑戦したスミスロフは、前回の雪辱を果たします。6勝13引き分け3敗という明確なスコアでボトヴィニクを破り、ついに第7代世界チャンピオンの称号を手に入れました。
* 1958年: しかし、チェスの歴史における常として、タイトルを失った前チャンピオンにはリターンマッチの権利が与えられます。ボトヴィニクはこの権利を行使し、再びスミスロフに挑戦しました。このマッチでは、スミスロフは5勝11引き分け7敗と敗れ、わずか1年で世界チャンピオンの座をボトヴィニクに奪還されました。

スミスロフのキャリアの絶頂期が、ボトヴィニクの時代と重なったことはよく指摘される点です。「もしボトヴィニクという圧倒的な存在がいなかったならば、彼はもっと長期間にわたって世界の頂点に君臨しただろう」と語られることも少なくありません。

棋風と晩年の活躍

スミスロフの棋風は、穏健かつ論理的と評されます。特にゲームの終盤における指し回しは、史上最高レベルの技術を持っていたと広く認められています。複雑な局面を正確に読み解き、微細な優位を築いて勝利につなげる能力は比類なきものでした。また、彼は単に強いだけでなく、その高い棋力を驚くほど長く維持したことでも知られています。特筆すべきは1983年、62歳という年齢で世界選手権の挑戦者決定戦の決勝に進出したことです。これは当時のチェス界に大きな衝撃を与えました（決勝では、42歳年下である新星ガルリ・カスパロフに敗れました）。

死去と後世への影響

ワシリー・スミスロフは、2010年3月27日、心不全のため89歳でその生涯を閉じました。彼は世界チャンピオンとしての短期間の統治、偉大なライバルとの激戦、そして特に終盤における卓越した技術をもってチェス史に名を刻んでいます。生前の功績を称え、1977年には小惑星の一つに彼の名前が冠されています。彼の残した棋譜や終盤理論は、今日のチェスプレイヤーにとっても貴重な学びの源となっています。

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