ルガルバンダ

ルガルバンダ：古代メソポタミアの伝説的な王

ルガルバンダは、古代メソポタミアのウルク第1王朝に登場する伝説的な王です。彼の名前はシュメール語で「小さな王」を意味し、夢解きと知恵の女神ニンスンを妻とし、ギルガメシュの親として多くの説話に登場します。

概要

シュメール王名表によれば、ルガルバンダはエンメルカルの後を継ぎ、ウルク第1王朝の第3代の王として1200年間統治したとされています。彼の息子ギルガメシュは第5代の王であり、ルガルバンダから王位を継承したのは都市の女神イシュタル/イナンナの配偶神ドゥムジでした。当時のウルクはまだ劣勢でしたが、ギルガメシュがキシュの王アッガに勝利したことで、ウルクの政権が優勢になったとされています。

ルガルバンダは元々人間の王でしたが、後に神格化され、神として崇拝されるようになりました。初期王朝時代の神々のリストにもその名が記されています。

親族

神話では、ルガルバンダはギルガメシュの父とされていますが、シュメール王名表ではギルガメシュの父親は風魔（リル）となっています。ギルガメシュの実在が確実視されていることから、ルガルバンダの実在についても様々な説があります。

『ルガルバンダ叙事詩』では、ルガルバンダは太陽神ウトゥ/シャマシュの息子であるエンメルカルを父に持つとされています。ウル第三王朝時代の王は、ニップル市でルガルバンダに供物を捧げ、自分たちがルガルバンダとニンスンの息子であることを謳った王讃歌の碑文が発見されています。これは、後代の王たちがルガルバンダを「聖なる両親」として敬い、ギルガメシュの兄弟であることを自称することで徳を得ようとしたためと考えられています。ルガルバンダは、他の多くのシュメール都市国家でも尊崇されていました。

ルガルバンダ叙事詩

ルガルバンダ自身が主人公として描かれている伝承は『ルガルバンダ叙事詩』のみであり、これは最古のシュメール文学のひとつとして知られています。『ルガルバンダとアンズー鳥』や、『ルガルバンダとフルルム山の洞窟』など幾つかの説話から成り立ち、ルガルバンダが王位に就くまでの過程の一部が記録されています。

第1部

ルガルバンダ王子は、エンメルカルの末息子として登場し、ウルク軍と共に遠征に出てからの数日間が描かれます。

序章

ウルクの創設者エンメルカルが、都市女神イナンナを篤く崇拝し国は栄えていました。エンメルカルは、メソポタミア南部の山岳地帯にある都市「アラッタ」の征服を決意します。ルガルバンダは、エンメルカルとその息子たち率いる軍に、末息子として同行します。

アラッタは瑠璃などの宝玉、貴金属に恵まれ、それらを細工する技術と職人を持っており、エンメルカルはアラッタの貴金属とその加工技術、貿易路の確保を目的としていました。

病気になったルガルバンダ

遠征中、ルガルバンダは突然の病に倒れ動けなくなってしまいます。ウルクへ引き返すこともできず、一行はルガルバンダを洞窟に運び休ませますが、ルガルバンダの容態は悪化し、兄たちはルガルバンダを置いて遠征を続けることを決断します。

神々への病気快復祈願

1人取り残されたルガルバンダは、太陽神シャマシュ、ウルクの守護神イナンナ、月神シンに病気回復の祈りを捧げます。

洞窟からの旅立ち

神々の加護を受けたルガルバンダは、病魔から回復し、洞窟を出て軍を追います。

第2部

後半は伝説の怪鳥アンズーを巡って物語が展開し、神話的な内容の会話も見られます。

アンズー鳥との出会い

軍を追う途中、ルガルバンダは伝説の鳥アンズーが巣を構えている巨木を発見します。ルガルバンダは、アンズーを喜ばせることで、アラッタまでの道筋か、ウルクへの帰り道を教えてもらえるかもしれないと考え、親鳥が狩りのために巣から飛び立った隙に、雛に御馳走を与え、化粧を施します。

アンズー鳥からの贈り物

狩りから帰った親鳥は、彩られた巣と雛の姿に仰天し、ルガルバンダに贈り物を与えようとします。ルガルバンダは贈り物を全て断り、脚力と腕力を求めます。アンズー鳥は彼の望みを叶え、ルガルバンダは超人的な腕力と脚力を授かります。

兄たちとの邂逅

アンズー鳥の助けにより、ルガルバンダはエンメルカル率いる軍に合流することができました。ルガルバンダは、アンズー鳥との約束を守るため、兄たちに事情を曖昧に説明します。

エンメルカルの苦悩

アラッタの抵抗に苦戦するウルク軍のため、エンメルカルはイナンナに助けを求めます。ルガルバンダは、エンメルカルの使者としてウルクへ向かうことを志願します。

イナンナからの伝言

ルガルバンダはウルクへ到着し、イナンナにエンメルカルからの伝言を伝えます。イナンナは、アラッタを討ち滅ぼすのではなく、アラッタの彫刻品や芸術家、職人を護り、戦いで傷んだアラッタを復興させるならば、エンメルカルは大王として勝利と祝福を得られると告げます。

イナンナの言葉に従い、エンメルカルは和平交渉を成立させ、アラッタとの交易を獲得します。

文学性

『ルガルバンダ叙事詩』は、主人公ルガルバンダの聡明さや、アンズー鳥からの魅力的な提供物を断り、最も欲しいものを手に入れる場面、末っ子でありながら王位を継承したことなど、ルガルバンダの活躍と得た報酬が大胆に描かれています。また、「幸運の裏には嫉みが潜んでいる」というアンズー鳥からの言伝に見られるような人生訓も残しています。

エンメルカルがルガルバンダからイナンナに伝えさせた伝言の冒頭部分「沼地にすぎなかったウルクに都を築いた」から、エンメルカルがウルクを建設したという背景が語られており、歴史的資料としても興味深いとされています。

イナンナからの王権授与

ギルガメシュは王権をシュメールの最高神エンリルから授与されましたが、エンメルカル、及びルガルバンダはイナンナから授かっています。イナンナとエンリルは共に王権の守護神であり、王権授与は時代によって交代して行われていました。安定した統治を願う時代にはエンリル、武力による領土拡大など国の拡張を優先する場合にはイナンナが授与するとされています。

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