キシュ

キシュ：古代メソポタミアを代表する都市国家

イラク、バビロン遺跡の東12kmに位置するテル・アル・ウハイミルは、古代メソポタミアで栄えた都市キシュ(シュメール語: Kiški)の跡地です。紀元前6千年紀には既に人が住み着き、シュメール初期王朝時代には、シュメール人やセム人にとって特別な意味を持つ都市として発展しました。

キシュの王朝と歴史

シュメール王名表によれば、大洪水後の最初の王権がキシュに降りたとされ、複数の王朝が成立しました。

キシュ第1王朝: 伝説的な23人の王が24510年間統治したとされ、その支配は神話と伝説の域を出ない部分も多いものの、キシュが当時大国の一つであったことは確かでしょう。エタナ王の「誕生の草」探しや、エンメバラゲシ王によるエラム征服といった伝説的な物語もこの王朝にまつわるものです。エンメバラゲシ王については、考古学的な証拠から実在が確認されており、紀元前28世紀頃には実際に在位していたと考えられています。しかし、シュメール王名表に記された王朝の興亡は、実際にはある程度の重複があったと推測されます。興味深いことに、キシュ第1王朝の多くの王はシュメール語ではなくセム語の名前を持っています。これは、当時キシュの住民にシュメール語を話す者とセム語を話す者が混在していたことを示唆しています。

キシュ第2王朝: アワン朝（エラム人が建国）の後、エラム人を放逐して成立した王朝ですが、その詳細な情報はほとんど残されていません。後に、ウルク第2王朝のエンシャクシュアンナによって破壊されたとされています。

キシュ第3王朝: キシュの破壊後、伝説的な女王ク・バウ（クババ）によって築かれました。この王朝は彼女ただ一人で構成されていたと伝えられています。

キシュ第4王朝: ク・バウの息子とされるプズル・シンを始祖とする王朝で、サルゴン伝説で有名です。この王朝のウル・ザババ王は、家臣であったサルゴンによって倒され、サルゴンはアッカド帝国を築いたとされています。しかし、ウル・ザババ以降のキシュ第4王朝の王もシュメール王名表に記載されており、その後のキシュとアッカド帝国の関係については様々な解釈があります。

シュメール時代以降、キシュはメソポタミア政治の中心地ではなくなりましたが、重要都市として存続し、サーサーン朝時代に放棄されるまで栄えました。

キシュ王の称号

初期王朝時代のキシュの歴史は、その史実性の確認が困難な部分も多いですが、シュメール人がキシュ王の地位に特別な意味を与えていたことは明らかです。「キシュ王（Lugal Kish.KI）」という称号は、キシュを実際に支配していない王も用いるほど、覇権的な意味を持つ称号でした。後に「(Lugal Kish)」という称号は世界の王を意味するようになりました。これはキシュという地名から世界を意味する語が派生したことを示しています。

キシュ以外の主要なシュメール都市国家

キシュ以外にも、メソポタミア文明には多くの重要な都市国家が存在しました。ウル、ウルク、ウンマ、エリドゥ、シッパル、シュルッパク、ニップル、マリ、ラガシュ、ラルサなど、それぞれの都市国家が独自の文化と歴史を築き、メソポタミア文明の多様性を彩りました。これらの都市国家との関係性も、キシュの歴史を考える上で重要な要素です。

まとめ

キシュは、古代メソポタミア文明を語る上で欠かせない都市国家です。その歴史は神話と伝説、そして考古学的発見によって少しずつ明らかになりつつありますが、未だ解明されていない謎も多く残されています。今後の研究によって、キシュのさらに詳細な歴史が明らかになることが期待されます。

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