ルクレシア・モット

ルクレシア・モット：奴隷制度廃止と女性の権利を闘ったクエーカー教徒

ルクレシア・モット（1793年-1880年）は、19世紀アメリカを代表するクエーカー教徒、奴隷制度廃止論者、そして女性の権利活動家です。マサチューセッツ州ナンタケット島でクエーカー教徒の家庭に生まれた彼女は、独特の宗教的背景と、女性の社会的地位が高かった島嶼部特有の環境の中で育ちました。クエーカー教徒の教えは、女性を男性の従属物とみなさず、彼女の社会参加への意識を高める土壌となりました。また、母親が経営していた小さな店を手伝うなど、幼少期から自立心を養っていったことも彼女の活動に影響を与えたと考えられます。

彼女はニューヨークのクエーカー派高等教育機関で学び、教師となりました。しかし、そこで男性教師と女性教師の給与格差を目の当たりにし、女性の権利への意識をさらに深めます。その後、結婚しフィラデルフィアに移住。子育てと並行して勉学を続け、メアリー・ウォルストンクラフトの『女性の権利の擁護』を愛読するなど、女性の権利に関する知識を深めていきました。

フィラデルフィアでの活動は、奴隷制度廃止運動との関わりを深めていく過程でした。バージニア州で目にした黒人奴隷の悲惨な状況、そして夫の奴隷制度廃止運動への参加は、彼女の強い正義感を刺激します。クエーカー教徒の多くが奴隷制を非人道的とみなしていたように、モットもまた、奴隷労働で作られた商品を使用することを拒否するなど、実践的な行動を通して奴隷制度に反対しました。

1821年には正式にフレンド教（クエーカー）の牧師となり、1833年にはフィラデルフィア女性反奴隷制協会の設立に貢献します。この協会には、ルイザ・メイ・オルコットの母であるアバ・オルコットも参加しており、中産階級の黒人女性もメンバーに含まれていました。モットは奴隷制度廃止運動において、女性を積極的に関わらせることを目指し、イラストに男性だけでなく女性も登場させるなど、視覚的な表現にも配慮しました。

彼女の活動はフィラデルフィアにとどまりませんでした。広大な食堂を備えた自宅は、さまざまな運動の仲間が集う場となり、元大統領ジョン・クィンシー・アダムスも訪問するなど、その影響力は社会の高層部にまで及びました。1838年には、黒人との交流の場としてペンシルバニア・ホールを建設しましたが、白人暴徒の襲撃により放火されるという悲しい出来事も経験しました。

1840年、ロンドンで開催された世界反奴隷制大会では、女性の権利を認め、女性代表として参加しました。しかし、大会で女性は議決権を認められず、傍聴席に追いやられたという屈辱的な経験もしました。この経験は、モットの女性の権利運動への関与をさらに強める契機となりました。

そして、1848年、セネカフォールズ大会において、「女性の権利」を訴える「感情宣言」を共同執筆。この宣言は、女性の参政権や社会参加の権利を主張する歴史的な文書となりました。ルクレシア・モットの生涯は、宗教的信念と社会正義への情熱を貫き、奴隷制度廃止と女性の権利向上に生涯を捧げた女性の力強い物語です。彼女の行動は、現代社会におけるジェンダー平等や人権擁護の運動に今もなお影響を与え続けています。

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