ルシアン・ブーテ

ルシアン・ブーテは、1980年2月28日にルーマニアで生まれ、後にカナダを拠点に活躍した元プロボクサーである。端正な顔立ちと強打で人気を博し、特にIBF世界スーパーミドル級王座を長期にわたって保持したことで知られる。

アマチュア時代

ブーテのボクシングキャリアは、故郷ルーマニアで始まった。アマチュア選手として国際舞台でも実績を残しており、1999年にアメリカ合衆国ヒューストンで開催された世界ボクシング選手権大会のウェルター級（67kg級）では、強豪が集まる中で銅メダルを獲得する快挙を成し遂げた。その後も世界選手権に出場したが、2001年大会（ミドル級）では2回戦、2003年大会（ミドル級）では準々決勝でゲンナジー・ゴロフキンに敗れるなど、上位進出はならなかった。惜しくもオリンピック出場は果たせなかったが、その才能はカナダのプロモーターの目に留まり、プロボクシングの世界へ転向するためカナダ、モントリオールへの移住を決断した。

プロキャリアの歩み

2003年11月22日、カナダのベル・センターでプロデビュー戦を行い、3回TKO勝利を収め、プロキャリアを白星でスタートさせた。プロのリングでもブーテは快進撃を続け、デビューから間もなく、元世界2階級制覇王者のディンガン・トベラに4回TKO勝利するなど、着実に実力を示した。

彼は世界王座挑戦前に、様々な地域タイトルを獲得・防衛し、ランキングを上げていった。NABF北米ライトヘビー級、NABA北米スーパーミドル級、NABF北米スーパーミドル級、WBCアメリカ大陸スーパーミドル級、WBOインターコンチネンタルスーパーミドル級といった王座を次々と手に入れた。特にプロ16戦目となった2006年3月のWBCアメリカ大陸王座防衛戦では、初めてKO勝利を逃したものの、ジャッジ三者ともフルマークという内容で判定勝利を収めている。これらの実績を積み重ね、無敗のまま世界挑戦の機会を掴んだ。

世界王座獲得と長期政権

2007年10月19日、ブーテは無敗の勢いをそのままに、IBF世界スーパーミドル級王者アレハンドロ・ベリオに挑戦した。自身初となる世界タイトルマッチで、ブーテは11回にベリオからTKO勝利を奪い、悲願の世界王座を獲得した。王者となったブーテは、そのパワフルなボクシングで強敵を次々と退け、IBF王座を9度にわたって防衛する長期政権を築き上げた。ウィリアム・ジョッピー、リブラド・アンドラーデ、エディソン・ミランダといった実力者たちを相手に防衛を重ね、スーパーミドル級の中心選手としての地位を確固たるものとした。

王座陥落と波乱のキャリア後半

しかし、2012年5月26日、ブーテはイギリス・ノッティンガムで元WBC世界スーパーミドル級王者カール・フローチと対戦。アウェイのリングでフローチの猛攻に晒され、5回にTKO負けを喫した。これがブーテにとってプロキャリア初の黒星となり、9度防衛したIBF世界王座から陥落することとなった。

王座陥落後もブーテはリングに上がり続け、2012年11月にはデニス・グラチェフとの対戦で判定勝ちを収め、7年ぶりにNABF北米ライトヘビー級王座への返り咲きを果たした。その後、ジャン・パスカルとのカナダ人対決が注目されたが、ブーテの左手骨折により試合が延期されるアクシデントが発生。延期を経て2014年1月に行われたパスカル戦では判定負けを喫し、NABF王座を失い、WBCダイヤモンド王座の獲得も逃した。さらに背中の負傷による試合中止など、困難な時期が続いた。

世界王座への返り咲きを目指し、2015年11月にはIBF王者ジェームス・デゲールに挑戦したが、判定負けで再び王座獲得はならず。2016年4月にはWBC王者バドゥ・ジャックとの統一戦（実質はWBC王座戦）に挑み、この試合は引き分けと発表された。

しかし、このバドゥ・ジャック戦後にドーピング検査で禁止薬物オスタリンの陽性反応が出たことが判明。ブーテ側は使用していた睡眠剤への混入を主張し、故意ではないと訴えたが、ワシントンD.C.コミッションにより、後に試合結果は引き分けから失格負けへと変更された。この件でブーテは罰金と6ヶ月間の出場停止処分を受けた（ただし、遡及適用により処分発表時には停止期間は終了していた）。

キャリア終盤は階級をライトヘビー級に移し、2017年2月にはWBC世界ライトヘビー級挑戦者決定戦でエレイデル・アルバレスと対戦したが、5回KO負けを喫し、再度世界挑戦の機会を得ることはできなかった。これらの経験を経て、ルシアン・ブーテは2019年3月21日に現役からの引退を正式に発表した。

主な獲得タイトル

NABF北米ライトヘビー級王座
NABA北米スーパーミドル級王座
NABF北米スーパーミドル級王座
WBCアメリカ大陸スーパーミドル級王座
WBOインターコンチネンタルスーパーミドル級王座
IBF世界スーパーミドル級王座（9度防衛）

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