ルシール (B.B.キングのアルバム)

ブルースの歴史に名を刻む巨匠、B.B.キングが1968年に発表したアルバム『ルシール』は、彼の数ある作品の中でも特に象徴的な位置を占める一枚です。通算15作目にあたる本作のタイトルは、キングが長年にわたり相棒としてきたギブソン製セミアコースティック・ギターにつけた特別な愛称「ルシール」に由来しています。彼のキャリアを通じて幾度となく登場し、晩年には名器として知られるギブソンES-355などが「ルシール」と呼ばれ、キングの魂のこもったプレイを支えました。このアルバムは、単にギターの名前を冠しただけでなく、キングと彼のギターとの深い絆、そしてブルースという音楽への敬愛を体現しています。

本作は、キングの抑制されつつも感情豊かな歌唱と、彼の代名詞ともいえる一音一音にブルースフィーリングを宿したギタープレイが存分に堪能できる構成となっています。特に約10分にも及ぶ表題曲「ルシール」は、インストゥルメンタルながらアルバムの核を成す大作です。キングの語りかけるようなギターソロが中心となり、彼の音楽世界へと聴き手を深く引き込みます。この一曲だけでも、キングのギタリストとしての卓越した才能と表現力を理解するのに十分でしょう。

アルバムには、このタイトル曲以外にも、多彩な楽曲が収録されています。キング自身が手掛けたブルースナンバーから、Ivory Joe HunterやWalter Spriggsといった他の作家による楽曲まで、幅広いブルースの表情を見せてくれます。感情的なボーカルが光る「You Move Me So」や「I'm With You」、リズミカルな「Country Girl」、そしてSidney Barnesらの共作による「Watch Yourself」など、各曲がアルバム全体に深みを与えています。

全収録曲は以下の通りです。

ルシール (Lucille) - 10:16
ユー・ムーヴ・ミー・ソー (You Move Me So) - 2:03
カントリー・ガール (Country Girl) - 4:25
ノー・マネー・ノー・ラック (No Money, No Luck Blues) (Ivory Joe Hunter) - 3:49
アイ・ニード・ユア・ラヴ (I Need Your Love) (Walter Spriggs) - 2:22
レイニン・オール・ザ・タイム (Rainin' All the Time) - 2:56
アイム・ウィズ・ユー (I'm With You) - 2:31
ストップ・プッティング・ザ・ハート・オン・ミー (Stop Putting the Hurt on Me) - 3:04
* ウォッチ・ユアセルフ (Watch Yourself) (Sidney Barnes, Louis Gross, George Kerr) - 5:47

B.B.キングの歌とギターを支えるミュージシャンたちも、本作のサウンドにおいて重要な役割を果たしています。パーソネルには、B.B.キング自身のギターとボーカルに加え、アーヴィング・アシュビーがギターで参加し、ロイド・グレン（ピアノ）、デイヴィッド・"レザー・サックス"・アレン・ジュニア（エレクトリックベース）、ジェシー・セイルズ（ドラムス）といった鉄壁のリズム隊がキングのグルーヴを支えています。また、マクスウェル・デイヴィスがバンドリーダー兼オルガン奏者として、そしてボビー・フォート、ボブ・マクニーリー、セシル・マクニーリーのサクソフォーン隊、メル・ムーアのトランペット、ジョン・ユーイングのトロンボーンといったホーンセクションが楽曲に豊かな色彩を加えています。

『ルシール』は、B.B.キングの芸術性が円熟期を迎えたことを示す作品であり、彼のギター「ルシール」への深い愛情と、ブルース音楽への揺るぎない情熱が見事に結晶化した一枚と言えるでしょう。ブルースファンならずとも、キングの音楽の真髄に触れる上で欠かせない、時代を超えて愛される名盤です。

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