ルノー・カジャー

ルノーがグローバルに展開したコンパクトクロスオーバーSUVが「カジャー（KADJAR）」です。このモデルは、特に欧州Cセグメント市場での競争力を高めるために開発されました。車名の「カジャー」はルノーによる造語であり、「4つの」を意味する英単語「quad」を連想させる「KAD」と、フランス語で「機敏な」を意味する「agile」、あるいは「噴き出す」という意味の「jaillir」を連想させる「JAR」を組み合わせたものです。この名称には、SUVとしての安定性や多様性、そしてダイナミックな走りのイメージが込められています。日本市場への導入が発表される以前は、一部メディアで「カジャール」と表記されることもありましたが、ルノー・ジャポンによる正式な発表で「カジャー」の呼称が採用されました。

開発段階でのコードネームは「HFE」と名付けられていました。その姿が初めて示されたのは2015年1月26日から始まったソーシャルメディア上でのティザーキャンペーンを通じてです。詳細な情報は2月2日に公式発表され、同年3月5日に開催された第85回ジュネーヴ国際モーターショーでワールドプレミアを迎えました。カジャーは、ルノーのSUVラインナップにおいて、よりコンパクトなキャプチャーと、上級モデルであるコレオスの中間に位置づけられる戦略的なモデルでした。プラットフォームには、ルノーと日産の共通モジュール構造であるCMF-C/Dが採用されており、これは日産の人気車種であるキャシュカイ（欧州名）やエクストレイルとも共通の骨格です。これにより、効率的な開発と生産を実現しつつ、優れた走行性能と実用性を両立させています。駆動方式は、前輪駆動（FF）と四輪駆動（4WD）の両方が設定され、幅広いニーズに対応していました。また、先進のコネクティビティとして、当時のルノー最新マルチメディアシステムである「R-Link 2」がダッシュボードに搭載され、快適性や利便性の向上に貢献しました。

カジャーの主要生産拠点となったのは、スペインのパレンシア工場です。製造された車両は、2015年夏からまずヨーロッパ本土や地中海・北アフリカ地域で販売が開始されました。右ハンドル仕様となるイギリス市場への投入は、やや遅れて同年秋からスタートしています。さらに、グローバル展開の一環として、2016年からは中国市場にも導入されました。中国でのモデル名は「科雷嘉（Kēléijiā）」とされ、ルノーと東風汽車との合弁会社である東風雷諾汽車が製造および販売を手掛ける最初のモデルとなりました。

日本市場への導入は、本国でのデビューからやや遅れて発表されました。ルノー・ジャポンは2017年8月31日、カジャーを2018年から日本に投入することを明らかにしました。これに先立ち、導入を記念した限定モデル「カジャー BOSE」が100台のみ先行販売されました。この限定モデルを急ぎ導入した背景には、当時のルノーのラインナップにおいて、メガーヌIIIの販売終了によって生じたCセグメントの空白を埋めること、そしてライバルであるプジョー3008の日本での販売が好調であったことなどが挙げられます。先行販売された「カジャー BOSE」は、パワートレインとして1.2リッター直噴ターボガソリンエンジン（型式H5F）に7速エフィシエントデュアルクラッチ（EDC）トランスミッションとFF駆動を組み合わせた単一の仕様でした。ボディカラーも「ブランナクレ（パールホワイト）」一色のみの設定でした。

「カジャー BOSE」が完売した後、2018年4月5日には通常モデルの発売が発表され、同月12日から販売が始まりました。通常モデルのグレードは「INTENS（インテンス）」のみの設定となりました。主要な装備は先行の「BOSE」モデルとほぼ共通していましたが、いくつかの変更点がありました。ボディカラーは「ブランナクレ」に加え、「ルージュフラム（フレームレッド）」「ブルーコスモス」「グリチタニウム（チタングレー）」の3色が追加され、合計4色から選べるようになりました。インテリアでは、シート地がレザーとファブリックのコンビネーションから、ヒーター機能付きのレザーシートに変更されました。一方で、「カジャー BOSE」に装備されていたパノラミックルーフとBOSEサウンドシステムは省かれました。価格は「カジャー BOSE」の仕様から3万円上昇し、347万円となりました。しかし、その日本での販売期間は長く続かず、2019年12月の時点で、ルノー・ジャポンの公式サイトからカジャーはラインナップとして確認できなくなっています。日本市場では短命に終わったモデルと言えます。

関連項目
ルノー
ルノー・オーストラル（後継車種）
ルノー・コレオス
ルノー・キャプチャー
* 日産・エクストレイル

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