ルートヴィヒ2世 (バイエルン王)

ルートヴィヒ2世

1845年8月25日、バイエルン王国のニンフェンブルク城に生を受けたルートヴィヒ2世は、1864年から1886年にかけて第4代バイエルン国王の座にありました。彼は、幻想的な城郭建築への類稀なる情熱と、作曲家リヒャルト・ワーグナーへの破滅的なほどの支援で知られ、「狂王」という異名で語り継がれています。彼の治世は、ノイシュヴァンシュタイン城のような絵画的な城や、ワーグナー作品上演のためのバイロイト祝祭劇場といった後世に残る文化遺産を生み出す一方で、国家財政に大きな負担を強いることとなりました。若き日はその美しい容姿から、多くの芸術家によって描かれています。

波乱に満ちた生涯

父マクシミリアン2世とプロイセン王女マリーの長子として生まれたルートヴィヒは、幼い頃から王太子としての教育を受けましたが、多忙な父の代わりに文学や伝説の世界に没頭しました。特に、ゲーテ、シラー、シェイクスピアといった詩人や劇作家、そしてニーベルンゲンの歌のような中世の伝説は、彼の内面世界に強い影響を与えました。

成人後は、美青年を側に置くことを好む一方で、女性を避ける傾向にありましたが、例外的に従姉にあたるオーストリア皇后エリーザベトとは深い精神的な繋がりを築きました。彼女もまた宮廷のしきたりを嫌う自由奔放な性格で、二人は互いの孤独を理解し合っていました。エリーザベトは、自身の妹ゾフィー・シャルロッテをルートヴィヒの妃に推薦し、婚約が成立しましたが、ルートヴィヒは度重なる結婚式の延期の後、一方的に婚約を破棄しました。この行動はエリーザベトの怒りを買い、二人の関係は断絶したとされています。

1864年3月10日、父王の崩御によりルートヴィヒは国王に即位します。即位後まもなく、彼はかねてより敬愛していた作曲家リヒャルト・ワーグナーを宮廷に招聘します。当時のワーグナーは経済的に困窮しており、国王の援助はまさに窮地を救うものでしたが、悪評の絶えなかったワーグナーの側近登用に、多くの家臣や国民は反感を抱きました。激しい批判に直面したルートヴィヒは、最終的に家臣たちの声を受け入れ、1865年12月にワーグナーを一時的にバイエルンから追放せざるを得ませんでした。

建築への情熱と「メルヘン王」

ワーグナー追放後、ルートヴィヒは政務から一層遠ざかり、自らの夢想する世界を現実にするかのような建築事業に没頭していきます。彼は、中世騎士物語に触発されたノイシュヴァンシュタイン城、フランス王ルイ14世を敬愛してヴェルサイユ宮殿を模したヘレンキームゼー城、そしてプチ・トリアノン宮殿を模したリンダーホーフ城など、壮麗かつ非現実的な城や宮殿を次々と建設しました。これらの建築物は国家財政を圧迫しましたが、彼の内なる世界を表現する重要な手段でした。これらの幻想的な城の数々から、彼は後世「メルヘン王」と呼ばれるようになりました。

政治と孤立

1866年の普墺戦争では、バイエルンはオーストリア側で参戦しました。戦争を極度に嫌っていたルートヴィヒは退位をも視野に入れましたが、最終的には議会の要請に従い、動員令に署名します。戦争はバイエルンの敗北に終わり、プロイセンへの賠償金が発生しました。

1870年の普仏戦争では、弟オットーが精神的な不調をきたします。王はますます現実から隔絶し、自らの内なる世界に深く沈潜。昼夜逆転した特異な生活を送るようになります。独りで食事をしながら架空の客人と語らう様子や、真夜中にそりを駆る姿が目撃されるなど、その奇行は領民の間でも囁かれたといいます。

廃位と謎の死

この状況を憂慮したバイエルン政府は、王の廃位を決断します。1886年6月12日、ルートヴィヒ2世は精神病を理由に逮捕され、王位を追われます。後任には叔父のルイトポルト公が摂政として就任しました。

ルートヴィヒはベルク城に移送され、翌13日、シュタルンベルク湖畔を医師ベルンハルト・フォン・グッデンと共に散策中に、二人は湖中で変死体となって発見されました。自殺説、他殺説など諸説あり、その最期には今日まで多くの謎が残されています。この報せに接したエリーザベト皇后は、「彼は狂っていたのではなく、ただ夢想家だったのです」と語ったと伝えられています。

廃位の公式な理由は精神病とされましたが、実際には、莫大な築城費を巡る王と内閣の対立が真の理由であったとする見方が有力です。王は建設資金調達のために借金を重ね、財務相と激しく衝突していました。首相主導のもと、王を精神病と鑑定し、後見下におく措置が強行されたとされますが、この診断の正当性には大きな疑問が呈されています。医師らが王を直接診察した記録はなく、伝聞や限られた観察に基づく診断であったことが指摘されています。

「私が死んだらこの城（ノイシュヴァンシュタイン城）を破壊せよ」という王の遺言は、自らの内面世界そのものであった城を、他者の目に触れさせたくないという強い思いの表れであったとされます。しかし、摂政ルイトポルト公は城を取り壊さず、一般に公開することを決定しました。現在、ノイシュヴァンシュタイン城はバイエルン地方随一の観光名所として、多くの人々を惹きつけています。

ルートヴィヒ2世の特異な生涯は、後世の多くの芸術家を刺激し、映画、書籍、舞台など、様々な作品の題材となっています。彼の遺した城と共に、その伝説は今も生き続けています。

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