ループクンド湖

ループクンド湖：謎に包まれた「骨の湖」

インド北部のウッタラーカンド州、ヒマラヤ山脈の奥深く、標高5,029メートルに位置するループクンド湖は、その神秘的な美しさとは裏腹に、「神秘と骨の湖」あるいは「スケルトン・レイク」という異名で世界に知られています。この高所の氷河湖は、トリスール山塊の窪地にあり、その浅い湖底や湖畔から何百もの人骨が見つかる特異な場所です。

人が恒常的に居住するにはあまりにも過酷な環境にあるこの湖周辺で見つかる大量の人骨は、長年にわたり多くの研究者や冒険家の関心を集めてきました。湖は周囲を氷河や雪を頂く山々に囲まれ、岩肌が露出した厳しい景観の中にひっそりと存在しており、近年ではトレッキングの目的地としても人気が高まっています。

発見と伝説

ループクンド湖に人骨が存在することは、19世紀末には既に報告されていましたが、広く知られるようになったのは1942年、インドの森林警備隊員によって再発見されてからのことです。第二次世界大戦中の出来事であったため、当初は侵入した日本兵の犠牲者ではないかという憶測も流れましたが、その後の調査で人骨がはるかに古い時代のものであることが判明し、この説は否定されました。

地元には、この大量の人骨の起源に関する悲劇的な伝説が語り継がれています。カナウジの王ジャスザヴァルが、身重の妃ラーニ・バランパや多くの従者、舞踊劇団などを伴ってナンダ・デヴィー寺院への巡礼に向かった際、ループクンド湖の近くで突然の激しい暴風雨に見舞われ、一行全員が命を落としたというものです。

科学調査の進展

浅いループクンド湖は、深さがわずか2メートルほどしかありません。そのため、夏の雪解けの時期になると、湖底に沈む白骨化した遺体がはっきりと見えるようになります。これらの遺体は、木製の工芸品や鉄製の鏃（やじり）、革製の履物、そして指輪といった所持品と共に発見されています。1950年代にはインド人類学調査局による研究が行われ、一部のサンプルは博物館に展示されています。

初期の科学的調査では、人骨は9世紀頃のものであると推定され、突然の暴風雨による遭難という地元の伝説が、その死因を説明する有力な説として考えられていました。特に、湖底で見つかった人骨の多くが、後頭部にクリケットボール大の丸い物体が衝突したような痕跡を残していたことから、激しい雹を伴う暴風雨に巻き込まれた可能性が指摘されました。

2004年以降に行われた詳細なDNA分析は、さらに興味深い事実を明らかにしました。調査対象となった人骨のサンプルは、少なくとも二つの異なるグループに分けられることが判明したのです。約70パーセントを占める比較的背の高いグループと、約30パーセントを占める地元の人々（おそらくポーター）に近いとされるグループです。さらに、遺伝的な解析から、背の高いグループは現在のイランや、後に日本の研究チームによってインドのチットパワン・バラモンとの遺伝的類似性が指摘されるなど、多様な起源を持つ可能性が示唆されました。これらの人々が、地元のガイドの助けを得て新たな移住地を探していたのではないか、という仮説も提唱されました。

しかし、2019年のより詳細な放射性炭素年代測定とDNA解析の結果は、これまでの理解を大きく覆すものでした。分析された38体の人骨の中には、西暦800年頃に亡くなった南アジア系の遺体と、それから約1000年以上後の1800年頃に亡くなった地中海東部地方と遺伝的親和性を持つとされる遺体が混在していることが明らかになったのです。この発見は、ループクンド湖で見つかった人骨が、一度の集団遭難によるものではなく、異なる時代に発生した複数の出来事による犠牲者である可能性を示唆しており、「骨の湖」の謎はさらに深まっています。

保全への課題

トレッキングの目的地として人気が高まるにつれ、ループクンド湖の人骨の保全が喫緊の課題となっています。観光客やトレッカー、好奇心を持った研究者などが記念品として人骨を持ち帰ることが常態化しており、このままでは数年のうちに湖から骨が失われてしまうのではないかという懸念が高まっています。地元のチャモリ県当局は、このエリアの保護の必要性を強く訴えかけており、インド政府も人骨を保護しつつ持続可能な観光を推進するため、ループクンド湖をエコツーリズムの目的地とする取り組みを進めています。

未だ多くの謎を残すループクンド湖。異なる時代、異なる背景を持つ人々がなぜこの高所の湖で命を落としたのか、その真相の解明は、今後のさらなる科学調査に委ねられています。そして、貴重な歴史的遺産である人骨をいかに保護していくかという課題も、この神秘的な湖と共に在り続けています。

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