ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女

フィンセント・ファン・ゴッホが1889年に制作した『ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女』は、油彩で描かれた一連の絵画作品です。この作品群は、同名のものが5点存在することが確認されています。ゴッホ自身が書簡で「'La Berceuse'」と記述していることから、『子守歌』という副題で呼ばれることもあります。また、『ルーラン夫人の肖像』や『子守をするルーラン夫人』といった名称で紹介されることもあります。

この絵画は、フランスのアルルに住んでいたルーラン一家の夫人、オーギュスティーヌ＝アレックス・ペリコ（Augustine-Alex Pellicot、1851年10月9日 - 1930年4月5日）をモデルに描かれました。彼女は、ゴッホの近所に住んでいました。絵画に描かれているのは、花柄の壁紙を背景に椅子に座り、手に持った紐でゆりかごを揺らす女性の姿です。ゴッホにとって、この作品は母性の象徴と捉えられていたと言われています。

『ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女』は、同様の構図を持つ作品が5点存在します。これらの作品は、ゴッホが耳切り事件を起こす前に着手した最初のバージョンを複製したものであるという説が有力です。しかし、どの作品が最初のバージョンであるかについては、複数の説が存在し、現在でも確定には至っていません。

現在、これらの5点の作品は、それぞれ異なる美術館に所蔵されています。具体的には、メトロポリタン美術館、クレラー・ミュラー美術館、ボストン美術館、ゴッホ美術館、シカゴ美術館が所蔵しています。

ゴッホは、この『ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女』を中央に置き、その両脇に『ひまわり』を配置するという展示方法を構想していました。この展示は、三幅対を形成することを意図したものでした。しかし、ゴッホが制作した『ルーラン夫人』と『ひまわり』には複数の作品が存在するため、どの作品を組み合わせることを想定していたのかは明確にはなっていません。

2003年には、損保ジャパン東郷青児美術館（現在のSOMPO美術館）において、シカゴ美術館所蔵の『ルーラン夫人』、ゴッホ美術館所蔵の『ひまわり』、そして損保ジャパン東郷青児美術館が所蔵する『ひまわり』を組み合わせた展示が実現しました。この展示は、ゴッホが構想した三幅対を再現する試みとして注目を集めました。

『ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女』は、ゴッホの芸術性を示す重要な作品群であり、その母性的なテーマと独特の色彩は、多くの人々を魅了し続けています。

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