レオポルト・ベルヒトルト

レオポルト・ベルヒトルト：第一次世界大戦への道標

レオポルト・アントン・ヨハン・ジギスムント・ヨーゼフ・コルジヌス・フェルディナンド・ベルヒトルト伯爵（1863年-1942年）は、オーストリア＝ハンガリー二重帝国を代表する外交官であり、第一次世界大戦の勃発において重要な役割を果たした人物です。彼の出自は、ハンガリーとモラヴィアに広大な土地を持つ地主貴族階級であり、ウィーンで生まれた彼は、華麗なるハプスブルク帝国の政治舞台にその人生を捧げることになります。

華麗なるキャリアとバルカン半島

1893年、ベルヒトルトはオーストリア外務省に入省しました。パリ、ロンドン、サンクトペテルブルクといった主要都市の大使館に勤務し、外交官としての経験を積み重ねていきます。1906年から1911年にかけては、ロシア大使を務め、複雑な国際情勢を肌で感じました。この経験は、後の彼の外交判断に大きな影響を与えたと考えられています。

1912年、アロイス・エーレンタール外相の死後、ベルヒトルトは外相に就任します。当時、オーストリア＝ハンガリー帝国は、バルカン半島における勢力争いに巻き込まれていました。ベルヒトルトの外交目標は、アウスグライヒ（オーストリアとハンガリー間の協定）を維持し、戦争を回避すること、そしてバルカンにおける列強間の協調関係を回復させることでした。しかし、2度にわたるバルカン戦争において、中立を維持しつつもブルガリアとの協力関係を築き、セルビアの勢力拡大を抑えようとする彼の試みは、残念ながら失敗に終わります。結果として、セルビアの背後にいるロシアとの関係は悪化し、ハンガリーが領土問題を抱えていたルーマニアとの関係も悪化するという事態を招きました。

サラエヴォ事件と強硬策

1914年6月28日、サラエヴォ事件が発生します。オーストリア皇太子フランツ・フェルディナントがセルビア人民族主義者によって暗殺されたこの事件は、オーストリア＝ハンガリーとセルビア間の緊張を極限まで高めました。ベルヒトルトはこの事件を、セルビアに対する強硬策を取る絶好の機会と捉えます。

7月23日、オーストリア＝ハンガリーはセルビア政府に10箇条の「オーストリア最後通牒」を突きつけ、48時間以内の無条件受け入れを要求します。セルビア側は一部の要求を受け入れましたが、ベルヒトルトはこれを拒絶し、7月25日にセルビアとの国交を断絶しました。皇帝フランツ・ヨーゼフ1世やハンガリー首相ティサ・イシュトヴァーンはセルビアとの開戦に慎重な姿勢を示していましたが、ベルヒトルトは彼らの反対を押し切り、7月28日にセルビアへの宣戦布告を断行します。

戦争への道

セルビアを支持するロシアは、総動員を指令。ドイツがロシアに宣戦布告したことで、ヨーロッパ全体を巻き込む第一次世界大戦が勃発しました。ベルヒトルトは開戦後も外交面で戦局を有利に進めようと努力しますが、イタリアが三国同盟を離脱し、オーストリア＝ハンガリーに宣戦布告。さらにルーマニアも協商国側に加わったことで、状況はますます悪化しました。

皇帝やティサ首相との確執も深まり、1915年1月13日、ベルヒトルトは外相を辞任します。宮中顧問官として政治の表舞台から退いた彼は、カール1世の退位とオーストリア＝ハンガリー帝国の崩壊を目の当たりにすることになります。1942年、第二次世界大戦下のハンガリーで死去しました。

結論

レオポルト・ベルヒトルトの外交政策は、成功と失敗の両面がありました。彼の強硬な対セルビア政策は、第一次世界大戦の勃発という悲劇的な結果を招いたと批判されています。しかし、彼の外交努力や当時の複雑な国際情勢を理解することで、第一次世界大戦という歴史的大事件をより深く理解することができるでしょう。彼の生涯は、複雑な国際政治の中で、一国の外交官がいかに大きな影響力を持つことができるかを示す、示唆に富む歴史的物語です。 彼の決断がヨーロッパの歴史に刻まれた、そして今もなお議論の的となっていることは、歴史家の重要な研究対象となっています。

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