ティサ・イシュトヴァーン

ティサ・イシュトヴァーン伯爵：激動の時代のハンガリー首相

ティサ・イシュトヴァーン伯爵（1861年-1918年）は、オーストリア＝ハンガリー帝国のハンガリー王国において、2度にわたり首相の座に就いた歴史上重要な人物です。その生涯は、19世紀末から20世紀初頭にかけてのヨーロッパの激動を反映しており、彼の政治的決断は、帝国の運命、ひいては世界史に大きな影響を与えました。

華麗なる家系と政治への道

1861年、ハンガリーの大地主貴族の家に生まれたティサは、15年間首相を務めたティサ・カールマーンを父に持ち、幼少期から政治の世界に接していました。彼は優れた教育を受け、その才能を活かし、1887年に国会議員として政治キャリアをスタートさせます。

保守派の指導者として

国会議員時代から、ティサは保守派政党である国民労働党の中心人物として活躍しました。オーストリアとのアウスグライヒ（妥協）体制やドイツとの同盟関係を維持することに尽力し、父カールマンの後継者として、20年以上にわたってハンガリー政治をリードしました。彼の政治姿勢は保守的であり、急進的な改革には常に慎重な姿勢を示しました。

首相在任と第一次世界大戦

1903年、ティサは初めてハンガリー王国首相に任命されます。しかし、選挙での敗北により1905年には辞任を余儀なくされます。その後、下院議長を務めたのち、1913年に再び首相に就任しました。二度目の首相在任中は、第一次世界大戦勃発という歴史的転換期に直面することになります。当初はオーストリア・ハンガリーの参戦に慎重な姿勢を示したものの、最終的には参戦を支持する決定を下しました。この決断は、帝国の運命を大きく変えることとなりました。

改革への抵抗と悲劇的な最期

1916年、皇帝カール1世が普通選挙制などの改革を提案した際には、ティサはこれを強く拒否しました。保守的な立場を貫いたティサと皇帝との間には緊張関係が生じ、1917年にはついに首相を解任されます。そして1918年、第一次世界大戦の敗北によってオーストリア＝ハンガリー帝国が崩壊し、ハンガリー革命が勃発する中、ティサは革命派の兵士によって殺害されました。皮肉にも、大戦開始時のオーストリア首相カール・シュテュルクも暗殺されており、両帝国の首相は同じ運命を辿ることとなりました。

歴史的評価

ティサ・イシュトヴァーン伯爵は、保守的な政治家として、また、激動の時代を生き抜いた悲劇的な英雄として、歴史に名を残しています。彼の政治的決断は、オーストリア＝ハンガリー帝国の盛衰、そしてヨーロッパの歴史に大きな影響を与えました。彼の生涯は、20世紀初頭のヨーロッパの複雑な政治状況を理解する上で、重要な手がかりを与えてくれるでしょう。彼の業績については、様々な歴史家の見解があり、現在もなお議論が続いています。彼の功績と失敗、そしてその時代の複雑な政治的、社会的な状況を理解することは、現代社会においても重要な意味を持つでしょう。

参考文献

南塚信吾 「ティサ（Tisza István）」柴宜弘・伊東孝之・南塚信吾・直野敦・萩原直監修『東欧を知る事典（新版）』 平凡社、2015年
A・J・P・テイラー『ハプスブルク帝国 1809-1918：オーストリア帝国とオーストリア＝ハンガリーの歴史』筑摩書房、1987年／ちくま学芸文庫、2021年
大津留厚 『ハプスブルク帝国』山川出版社、1996年
南塚信吾編『ドナウ・ヨーロッパ史』山川出版社、1999年

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